俺からのプレゼントにさせて

休日。
ショッピングモールで姉と祖母が買った洋服の紙袋を持ちながら、まだ今日はかかりそうだなと思っていたら、夢野さんとばったり会った。
人の多さに辟易している様子が窺える夢野さんは、俺の顔を見てすごく嬉しそうに駆け寄ってくれる。たぶん俺だからじゃなくて。きっと見知った人間への安心感からだろうなと思った。
でも俺の後ろに姉と祖母がいたので、二人に慌ててお辞儀した夢野さんは、恥ずかしそうに俺たちに手を振る。

「あ……」

すぐに回れ右をしてしまった夢野さんに思わず手が延びるけど、両手に持っている紙袋の重さにはぁっとため息をついた。

「長太郎、しょうがないわね。このカートに乗せて。今日はもう解放してあげるわ」

「姉さん……」

俺が少し沈んだように見えたのだろう。珍しいものでも見るように姉は俺にお役御免を言い渡してくれた。

「ありがとう!姉さん!あ、お祖母ちゃんもごめん。先に帰っていていいから!」

二人に手を振って、人と人の隙間をうまく潜り抜けながら、やっと夢野さんに追い付いた。

「ま、待って!夢野さん!」
「え?!」

俺が腕を掴んで引いたら、夢野さんはものすごく驚いた顔をしていて。不安そうに揺れていた瞳がまた俺を映して揺れている。

「一緒に回ろう!」
「え、でも、ご家族のかたが……っ」
「大丈夫。姉さんの買い物はほとんど終わったから」
「でも……」
「夢野さん、こういうところ苦手じゃない?お店の中にも入らずふらふらしてるし」
「…………超苦手でする。だって洋服なんてお母さんがいつも買ってきてくれたのを適当に着てただけだから」

やっぱりなと苦笑する。
夢野さんの私服を何度か見たことがあったが、たぶん彼女はパンダグッズ以外興味ないんだろうなと思っていた。
だからこの場所で、一人行動の夢野さんに会ったのは意外だったし、一人にしちゃダメだと思ったのかもしれない。

「うん、やっぱり一緒に回ろう。俺、女の子の買い物には慣れてるから」

そう言ってから、慌てて「ね、姉さんによく付き合うから!」と付け加えた。
夢野さんに何か誤解をされちゃいけないと思って慌てたけど、彼女はいつものふにゃっとした笑顔で「うん、わかってる」とだけ頷いてくれる。
その笑顔をどれだけ見ても飽きないだろうなとぼんやり思った。胸の奥が仄かに温かい。

それから何店舗か、夢野さんの雰囲気に合いそうな店を回って何着か試着したあと、夢野さんは榊監督から預かってきたらしい彼女専用のクレジットカードで支払っていた。
靴もサイズが変わってきたと夢野さんが言ったので買ったりもして。



「ふぁー、疲れたぁー……」

「はい、夢野さん」

「え!あ、ありがとう。えっと!」

フードコートで疲れてテーブルに突っ伏した夢野さんに買ってきたフルーツジュースを差し出す。
慌てて財布から小銭を取り出そうとした夢野さんを制止した。

「これは奢りだよ」

「えぇ?!鳳くんには付き合ってもらっただけでも感謝なのにっ!」

「買い物に付き合うよって言ったのは俺だし、これも奢りたいから奢るんだよ。だから、ね?」

「うぅ、重ね重ねありがとうでございまする」

深々と座ったままでお辞儀する夢野さんに小さく笑った。
そしたら試着室から出てきた時の彼女の様子を思い出して、そのまま吹き出してしまう。

「え、え?な、なんで?」

「ご、ごめんごめん!試着室の時のこと思い出したら……っ」

「お、鳳くんが思い出し笑いを……っ!っていうか、あれは!あれで!あれだからっ」

わたわたと両手を上下に必死に振る夢野さんがまた可愛かった。

「まさか試着する服を着ている服の上から重ねて着るなんて想像つかなかったよ」
「違うの!お願いその記憶をデリートしてください!消去ボタンはどこかなっ?!」
「そんなボタンは存在しません」
「ふぉぉおっ」

真っ赤になった顔を両手で覆った夢野さんにまた笑いが止まらなくなる。

もし消去できるんだとしても、俺は絶対にこの想い出を消したいとは思わないよ。
その言葉は飲み込んで、こっそり買ってポケットに忍ばせていたバレッタを取り出して、いまだに顔を隠して唸っている夢野さんの髪につけてみる。

「……へ?鳳くん?」

「俺からのプレゼント」

「えっと……あ」

パンダ型のミラーを取り出した夢野さんに若干緊張した。
気に入ってくれなかったらどうしようとか、妙に手のひらに汗をかく。

「……ヴァイオリン……」

「うん、パンダじゃないけど。その、夢野さんに似合うかなって」

「あ、ありがとう!でもいつの間に……!凄く嬉しい!!」

あぁ。
今日一番の笑顔だ、なんて。
心が踊り出しそうなぐらい軽やかになった。

ヴァイオリン型のバレッタを見つけた瞬間手に取っていて。
そしてそれは姉と祖母が買い物をしていた時点での話だなんて言えないから誤魔化したのだった。

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