その一言で何かが外れた (7/12)
西谷とのお昼はすごく楽しかった。
高校に入学してから始めてこんなにも楽しい時間を過ごした気がする。というか他の人とこんなにも話したのは初めてだ。
そもそも西谷が話しやすい。
ぱっちりした目で興味深げになんでも聞いてくれて、私の作ったお弁当も美味い美味いと喜んで食べてくれた。
裏表のない人懐っこい笑顔がすごく癒される。
だからだろうか。
なんでもかんでも話してしまうのは。
「それでその幼馴染みって?」
「あ、あぁ。龍は、田中龍之介というのだが――」
「え、あの龍?俺、部活で一緒だぜ!」
なんだと。
西谷と同じ部活なのか。
羨ましい。今生まれて始めて龍が羨ましいと思ったじゃないか。
「な、なんの部活をしてるんだ?」
「んー?バレーボール部!」
すごく好きなんだろう。
満面の笑みでそう答えてくれた西谷にドキリとする。
白い歯が見えて可愛くて撫でぐりまわしたい。
っていうか、龍は野球部じゃなかったのか。なんで小さいときと同じように坊主頭なんだろう。
「あ、チャイム」
西谷がごちそーさん!と立ち上がって、私に手をさしのべてくれる。
その行動に、ん?と?がいっぱいでた。
どうして私に手をさしのべているんだろうか。
「な、なに……?」
「手!」
え?と首をかしげながら西谷の手を掴んだら、ぐっと引き寄せられて立ちあがるときの支えになってくれたようだ。
男子からそんな行動をとられてのは初めてだったので、わけがわからない。
「あ、ありがとう。でも、なんで……?」
「え?女子に優しくするのが俺のモットーだからだ!」
えっへん!と聞こえそうな感じで腰に手を当てて言い切った西谷を見下ろす。
女子。
女子扱いを、同い年の男子にされたのは生まれてはじめてである。
かぁっと顔面から火が出るかと思った。
もうそれぐらい熱い。
どうしよう。西谷の顔がまともに見れない。
心臓がドキドキする。
「じゃ!またな、深井!」
大きな手振りでそう言ってくれて西谷に小さく手を振り返す。
あぁ、私も早く教室に戻らなきゃ。
だけど、戻るまでの道のりで、この熱は引いてくれるだろうかと不安になった。
嬉しすぎて死にそうだ。
この日から、私の中で西谷は何か特別な男子になっていくのだった。