クールな彼との共通点
四天宝寺中学校
私には二つ趣味がある。
それは小さい頃からシングルマザーのお母さんに留守を任されることが多くて、自然と身についていた料理。
お母さんに喜んで欲しくて、それはもうものすごいレパートリーを作れるようになった。
おかげで家庭科の評価は高い。
それから、ここ半年前から始めたブログだ。
始めは訳分からずって感じだったし、異様に投稿したあと何回も見直したりしたものだ。
内容は作った夕食を載せていくだけ。
またお弁当を作った時はその写真を載せたりして。
反応がいいからと、私とお母さんのお弁当はいつもキャラ弁だったりする。
「……ふぁ、眠い……」
私は学校の教室で机に突っ伏しながらあくびを噛み殺した。
今日すごく気合を入れたキャラ弁作ろうとして、朝四時起きである。
だから、もう数学の授業なんて睡眠の呪文を詠唱してんじゃないかなとかそんな気分になってきた。
「む、むぅあ……ぁっく!」
また大きなあくびが出そうになって、必死に鼻の下を伸ばしたりして堪えようとした。目は半開きになるし、こんな顔目撃されたら百年の恋も覚めるだろうな……
──パシャリ
……え?
今小さくシャッター音が聞こえた。
ビクッとしながら、顔を音がした方へ向けたら、数学の教科書を縦に立てて壁にしながら、隣の席の財前くんがスマホを私に向けている。
「え、え?ま、まさか……」
撮られてしまったの?
あの、乙女は絶対しないようなおっさんっぽい顔を?
「ちょ、なんで撮ったの!」
できる限り小声で言ったら、財前くんが「ぷはっ」と吹き出す。
コイツ、殴り飛ばしたい……!
「や。おもろかったんで」
意地悪そうに言った財前くんは口角をほんの少しだけ上げ、目を細めた。
「け、消してくれない……?」
「嫌っすわ」
「肖像権侵害だと思うんだけどっ」
「ブログにアップする時は、モザイク処理もするんで誰かとかわからんと思うで」
「は?」
今こやつはなんと言ったのだろうか。
人様の変顔をブログにアップする?
なんて失礼なやつなのだ。
そこまで考えてから、何か記憶が引っかかって、私も教科書を壁にするように立ててから、スマホの画面をいじる。
昨日の夜、コメントをくれた人の中に、どうやらウチの学校の先輩らの日常や作曲した曲を上げている人気ブロガーの人がいたような。
……善哉と書いてある名前をクリックしてリンク先に飛ぶ。
「あ!」
素っ頓狂な声を上げたのは、もう既に私の先程の変顔がアップされていたからだ。
モザイク処理は確かにされているけれども、見る人が見れば誰かわかるんじゃないかなと思える絶妙なぼかし具合で。そして笑える場所は残している。いや、当人である私は全く笑えないがな!
「……とりあえず本野。スマホは没収な」
「え?!」
いつの間にか私の座席の前には数学の先生が立っていてら呆れたように私の手の中からスマホを没収して行った。
せめて道連れに、と財前くんを見たけど、既に彼は頬杖をつきながら、にっと笑っている。
……この野郎、いつか覚えてろ!
これが、私の中で財前くんを意識し始めた瞬間だった。