めっちゃ好きやねん×1000
四天宝寺中学校
「うち、オサムちゃんのこと好きなんよ!」
「おー、ありがとうなぁ。気持ちは受け取っとくわ」
がしがしっと乱暴に頭を撫でられる。
おかげで髪の毛がぐしゃぐしゃになった。
ちゃんとセットしたのに!
生まれつきサラサラのストレートヘアーだったらどんなによかっただろう。
あいにく私は生まれつきの天パだ。
三十九回目の愛の告白を三十九回同じ台詞で返してくるオサムちゃんの背中を睨みつつ、ひらひら手を振っている姿にさえ胸がときめく。
ひどいフラれかたをしたわけやないし、いつもいつも優しい笑顔で頭を撫でられるから諦めがつかんくて、また告白。それをずっと繰り返してる。
相手は中学教師やし、生徒であるうちにそんな告白されても困るんやろうけど。
それやったら、もっときつい言葉で返してくれてもええのに。
「中途半端に優しいねん。アホ……」
せやからうちは諦めへん。
卒業までに絶対口説き落としたるねん!
それからもずっとうちは毎日のようにオサムちゃんを追いかけては告白した。
告白する暇あんねんやったら勉強しろ言われたから、学年一位を取って告白。
運動もがんばらなあかんでと言われたら、その日から女子テニス部に入ってレギュラー入りした。
二年の後半から三年の前半まで生徒会長も勤め、文武両道そして一緒に愛の告白もし続けた。
「……いや、ほんま……本野。自分の熱意には感服させられるわ」
ぱちぱちぱちと拍手をしながら、九百九十九回目のうちの告白にオサムちゃんは感心したように頭を何度も縦に振る。
「せやけど、自分と付き合われへんのはわかっとるやろ?大体、自分が中学、高校と卒業して……その頃には俺、だいぶええおっさんやで?」
「オサムちゃんがええんや……」
不貞腐れたように呟いても、オサムちゃんはあのあっけらかんとした表情でうちの頭をぐりぐりと撫でる。
あぁ、本当にこの手の感触が大好きや。
近づいたら漂う煙草の臭いが好きなんや。
オサムちゃんが吸ってる銘柄なら絶対当てられる自信がある。
「もう明日卒業式やろ。諦めや。……三年間、自分との時間おもろかったで」
そう言って困ったような顔して笑ったオサムちゃんに涙が出た。
いつもはぐらかされたり、お礼だけですまされたりした三年間。それでも涙が出なかったのは、完全な否定がなかったからや。
もうこれで遊びの時間は終わりやでって言われて泣いて引きづられてる小さい子みたいに、ただただ悲しくて泣いた。
次の日の卒業式は一人ではじめから目が真っ赤で、友達に「そんなにうちと離れるの嫌なん?」って抱きつかれて、それはそれであるけど。ただ曖昧に笑って返すしかなかった。
「これが最後の告白です」
卒業式後、みんなが記念撮影などを撮っている時にうちは放送室をジャックした。
「渡邊先生。うち、本野悠希はオサムちゃんが心底大好きや!うちが高校を卒業して、先生好みの美女になったその時は、絶対私を恋人にしてや!!」
「ど阿呆。俺好みの美女?そんなんなってたら、俺の方から告白したるわ」
「千回愛を囁くんやで」
「そん時は万回でもいくらでも言ったるわ」
放送室の扉前に立ってたオサムちゃんにポロポロ涙がこぼれ落ちた。走ってきてくれたんか、肩が上下して息切れしとる。運動不足やねん。オサムちゃんは。
それから泣いているうちをぎゅっと抱き締めてくれたオサムちゃんは、壊れもんを扱うかのように、いつもよりもずっと優しく頭を撫でてくれる。
「……卒業おめでとうな」
「うん、もう一回卒業したら、絶対迎えに行くからっ」
「ふは、えらい男前やな。……そん時がくるんを楽しみにしとるよ」
寂しげなオサムちゃんの声に、散った桜の数だけまた愛を告げようと心に決めた。