花顔柳腰



「……暇だな」
「暇ですねぇ……」
「……アイツら遅いな」
「そうですねぇ。何もなければいいんですけど」
「まぁヤツらなんかどーせ買い食いでもして腹こわしてトイレに立てこもり事件でも起こしてんのかもなぁ。あー銀さん、マジ腹減ってきたー」

なんで我が家でこんな緊張しなきゃいけねぇのか。勝手にぺらぺら回る舌に冷や汗が流れ出る。
というか、なんで俺は夢子ちゃんと二人っきりなわけ?!
なんでアイツらは夢子ちゃんを俺なんかに預けてのほほんと外出(ただの買い出し)してんのォ?!

夢子ちゃんが前に酒を飲んで妙に色気を振りまいていたあの夜から、俺は彼女を少し、ほんのちょーっと、否マジでちょこっと、女として意識をし始めてしまったっつーか?アレだよアレ。銀さん、ちゅーされちゃったからね?そりゃあ雄しべが雌しべに反応しちゃっても、至極当然の自然の摂理だと思うわけよ。

「……って、長々だらだら言い訳してたら、本格的に意識してきたァーっ」

「?……銀さん、さっきから汗がすごいですけど、大丈夫ですか?」

流石の銀さんもここまで白い天然を見たことがない。
わざと距離を取ろうとしていた俺に近づいてきて、夢子ちゃんはいい香りのするハンカチで俺の額の汗を拭ってくれたのだ。
赤い唇にどきりと胸が高鳴る。……くそ、なんで俺が動揺しなきゃいけねぇんだ。こんな小娘一人に!

「…………夢子ちゃん、銀さん、お願いがあるんだけどー」

ここは気持ち的にも大逆転を狙おうと、俺はある一つの思いつきを決行することにした。





「……ぎ、銀さん、これ……本当に、お仕事で……?」

「うん、そうそうー。後ねー、この猫耳つけてー首輪もー」

未だに帰ってこない新八や神楽、菊一らのことを頭の隅っこに置きながら、俺は夢子ちゃんに際どい衣装を着せることに成功した。
なんつぅか、素直に水着のような猫衣装を着るとは思ってなかったが、どうやら彼女は俺からお願いされたことが嬉しかったらしい。

羞恥で真っ赤になりながらも、衣装を着たまま俺を上目遣いで眺めてきた夢子ちゃんにいつの間にか理性が吹っ飛びそうだった。

……これはヤバい。
本格的にこの娘は、男を振り回す厄介なタイプだ。
策士策に溺れるというか、ミイラ取りがミイラになるというか。


「す、据え膳食わぬは男の恥とも――」
「なんだって?おいこら変態」
「何してるんですか、銀さん……見損ないました」
「最低のゲス野郎ネ。夢子に何する気だったか」
「――ちょっと待てェエ!!てめぇら、タイミング良すぎんだろォチクショー」

……そこらのドッキリよりたち悪いんじゃねぇのかと嘆いた夜。
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