そのまま灰になれ――甘い香りが脳を侵していくようだ。 「……元就先輩」 「……っ、日輪の……否、貴様は……何故っ」 屋上で夕闇に染まる空を仰いでいたら、不意に背後に人の気配を感じた。 名を呼ばれ振り向けば、そこにいたのは、あの日輪の女神の際どい衣装を身にまとった夢子だったのである。 最初、誠に日輪の女神本人かと思いこんでしまうほどだった。 だがそんなことはありえぬ。第一、彼女は我を元就先輩と呼んだのだ。 「……っ、貴様待て!」 困惑している我に近づいてきた夢子は、我の目の前で膝をついた。 頭を垂れ、まるで跪いているようだ。否、これはやはりそうなのだろう。 「……熱に冒されたのか」 「いいえ、違います。私、元就先輩に喜んでもらいたくて……」 潤んだ瞳で恥ずかしそうに我を見上げる夢子を信じられぬと思いながらも、ゾクゾクとした男の欲が内側からこみ上げてくるのがわかった。 ……もはや、これが何かの罠でも構わぬ。そう思うほど、あたりを包む甘い香りが我を惑わしているのだろう。 冷静に自己分析できているのに、流されてしまう己につい自嘲してしまった。 「……元就先輩、私、頑張りますから」 「っ?!夢子――」 夢子が我の革ベルトに手をかけ、制服を脱がそうとしている。 これはまさか、夢子が我のモノを口で慰めようとしているのではないのか。 「――待てっ、日輪の女神はそのような奉仕など!」 「う、うわぁっ?!」 我に似つかわしくないほどの大声を上げたら、いきなりそばで男の声が悲鳴を上げていた。 目を見開け、何故か横になっていた上体を起こす。隣にはびくびくと青い顔をした金吾が立っているではないか。 「……夢、か。……それはそうと金吾。貴様、その手に持っている香はなんぞ」 「あ、こここれは、天海様に貰った香で。毛利様、お、お昼寝してたみたいだったから、そ、その、いい夢見れ――」 「焼け焦げよ!」 「――ひえぇえっ?!な、なな、なんで?!」 ……とりあえず、これほどまでに不愉快な目覚めはない。 |