お前さんになら騙されてもいい――その日、その瞬間、俺は己の目を疑った。 「……は、なんじゃ?」 ぱちぱちと何度も瞼を動かす。 少し離れた場所で俺を見ているそいつは、俺の反応にニヤリと笑った。 ……まずここは立海の屋上で。 俺とそいつ以外に人影はない。 目立つ銀髪。 後ろの毛を少し結っているなんて、それだけでこの学校の男子の中でも珍しいだろう。 ……それにしても、これは似すぎじゃろ。 「……まさか、ドッペルゲンガー、か?」 確か三回見たら死ぬんじゃなかったか。 ……いかん、そう思ったら急に寒気がしてきた。気持ち悪い。 だがなかなか目の前から消えようとしないそいつに、だんだんと苛立ちが増してくる。 「……なんじゃ、何がそんな面白いんじゃ」 人が怯えている様が愉快だなんて、なんつー性格の悪いドッペルゲンガーだ。 そう舌打ちをした瞬間、俺のドッペルゲンガーはぶふぅっと吹き出していた。それからケラケラと大声をあげて笑い始める。 ……この声、聞いたことがあるナリ。というか、もしかして。 「……夢野さん、か?」 「あははっ、ごめんなさい!はい、私です。立海ドッキリ企画を跡部様たちが立ち上げたので参加を。あ、変装の仕方は柳生さんに丁寧に教えていただきました!」 ピースして俺に笑顔を向ける夢野さんに怒りはどこかに飛んでいっていた。 がっくりと脱力してため息をついた俺は、自分でも気づかぬうちにうっすらと口元に笑みを浮かべている。 ……あぁ、きっと、彼女には適わない。 どんな悪戯でも許してしまうだろう自分が一番愉快じゃった。 |