ただひたすらに悪戯に笑う君が恋しい



「トリックオア――」
「あ、はい。どうぞ」
「――とり、ってちょ、おまっ」

氷帝の跡部主催のハロウィンパーティーに立海テニス部レギュラーも招待されたから来たわけだが、そのパーティーで悪魔っ娘みたいなコスプレをしている夢野を見つけたので、わざわざ話しかけてやった。
というのに、定番のセリフを最後まで言い切る前にぽんっと駄菓子セットを手渡される。
しかもそのままてくてくとジャッカルたちに「トリックオアトリートぉ?!」と叫びながらタックルしていったので、異様にムカついた。

……なんなんだよぃ。
せっかく狼男のコスプレしてる俺が話しかけてやったのに。
さっき、氷帝の女子らしきヤツらに「きゃー!あの人、可愛カッコイイ!!」って黄色い声出されたんだぜ?!
普通女子なら俺を誉めるだろぃ!……ミイラ男のコスプレしたジャッカルじゃなくて!




「……そこの丸い狼さん」

ムカムカしながらやけ食いしていたら、夢野がキヒヒと笑いながら近付いてきた。

「丸い狼言うな」

「まぁまぁ細かいことは気にせず。……ところでトリックオアトリート?」

ふふんっと偉そうに鼻を鳴らした夢野は、悪戯っぽい笑みを浮かべながら俺に手を伸ばす。

「丸井さんのことだから、お菓子たくさん常備してきたと思いまして。さっきたくさん女の子にあげてたし、もうないでしょう。ふふふ、これで悪戯し放題……」

「ほらよ」

「な、んだと……?!」

計算外だ!と言わんばかりの顔で目を見開いている夢野にふんっと鼻息を荒くした。

「……お前は絶対そうくるだろうと思ってたんだよぃ。だから、それお前専用に用意してきたクッキー。俺が焼いたんだぜ」

しかもお前が好きな動物型な。と続けたところで、夢野が俺に勢いよく抱きついてきていた。

「うわぁ、ありがとうございますっ!」

それはほんの一瞬の出来事で。
たぶん夢野は無意識にしたことだ。

ぶんぶんっと両手を振り満面の笑みを浮かべて喜ぶ夢野は、今まで見てきた中でもとびきり眩しい気がした。

バクバクと五月蝿いくらいに鳴り響いている心臓の音が、このハロウィンパーティー会場に響き渡っちまうんじゃねぇかと思うくらいで。



「…………く、クッキーやったのに反則だろぃ……」

アイツの行動が俺の心を知った悪戯のようで。

情けないくらいに血の上った頭が、泣きたくなるぐらい自分の気持ちをさらけ出していた。
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