否、俺は持久力に自信があるからまぁ別にいいんだが……ダブルスパートナーのブン太と赤也がかなり息切れしていた。というか、赤也は地べたに大の字で倒れ込んでいる。
「情けないぞ!たるんどるっ!!」
「ふ、副部長の鬼ー……っ」
いつものように叫ぶ真田に隠れて赤也が呟く。だが俺は見てしまった。柳が確かに赤也の呟きをメモしていたのを。
……すまん、赤也。たぶんこれは俺にはフォローできないぜ。
「……くっそぉ、ジャッカル、お前の肺一つくれよぃ……っ」
「バカ。やれるか」
四つあるんだろぃー!ケチー!と叫ぶブン太に頭が痛くなる。四つの肺を持つ男はただの異名だ。本当に四つも肺があったら俺は化けモンじゃねぇか。……否、ブン太がわかってて言っているぐらいは理解しているが。たまに本気で言ってんじゃねぇのかって思うときはある。
「……大体、ブンちゃんは食べ過ぎナリ。その腹まわりの肉を落とした方がいいぜよ」
「うっせー」
ふらっと現れた仁王は適度に汗をかいていたが、どこか涼しげな顔をしている。
「……仁王くん。十周目から四十五周までの間、姿が見えませんでしたが、どこにいたんですか?」
「……プ、プリッ」
さすがダブルスパートナー。仁王の行動はお見通しらしい柳生が静かに迫った。
誤魔化そうとした仁王だが、あれはたぶん部屋に戻ってからも柳生に説教されるんだろうな。
「……お前たち、もう行くぞ。入浴時間だ」
柳の声で渋々と立ち上がった赤也が俺に「引っ張っていってくださいージャッカル先輩ーっ」と泣きついてきた。
「……仕方ねぇな。ほら、掴まれ」
「あ、ずっりぃー!ジャッカル、俺を背負え!」
「お前な……」
背中にタックルしてきたブン太に深いため息を吐き出す。
「……あ。そういえばさ、アイツ……夢野は風呂とかどうすんだ?」
文句を言ってやろうと思ったら、ブン太がそう続けた。瞬間的に赤也の顔が険しくなる。というか、少し頬を赤らめているようだ。
「……夢野なら、三階が貸切のような状態だからな。それに、確かここの三階の部屋はスイートルームで、風呂などが部屋に完備されているはずだ」
前を歩いていたはずの柳が振り返り、ふっと笑う。……うちの参謀は、テニス以外も全部データ化しているのか。
「なんだよそれ!ずっりぃー!……おい、赤也!明日自由時間に三階探検してやろうぜぃ!」
「な、なんで俺もなんっスか!」
「何言ってんだよぃ!お前アイツのこと気にな──むぐぅ」
「ははっ、赤也。コイツのことは気にするな!な?!」
慌ててブン太の口を塞いで赤也に愛想笑いを浮かべてやった。赤也は首を傾げるだけでよくわかんなかったらしい。
よかった。後輩がちょっと馬鹿でよかった。
「──ぷはぁ!死ぬかと思ったじゃん!なんなんだよぃ!」
問題はコイツだ。
まだ明らかに気持ちの整理が追いついていない後輩に何を口にするつもりだったんだ。この馬鹿は。
不意に夕食の時に夢野が口に出していた台詞を思い出す。
「……お前は本当に天才的だな」
「え、当たり前だろぃ?!へへっ」
俺が伝えたい意味を理解せずに照れて笑う相方に涙が溢れた。……空気読め。頼むから。
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