初日の夜in山吹
《……返事がない。このメールアドレスの人物はもう寝ているようだ》

《……あはは、じゃあこのメール返信分は誰が打ったのかな?》

《…………携帯電話が》

《じゃあ詩織ちゃんの携帯電話さん。詩織ちゃんのスリーサイズを教えてー》

《もう。なんなんですか、セクハラで訴えますよ!後、安眠妨害で!》

「……ぷっ」

返ってきたメールを見て思わず一人で吹き出してしまった。
そんな俺を同室の室町くんと壇くんが訝しげに見てくる。

「メンゴメンゴ!俺のことは気にしないでいいよ!」

「はぁ、わかったです。……取りあえず、南部長から早朝ランニングが六時からだから、寝坊するなよと連絡が来たです」

「……五時半起きでいいかな」

仕方がないとはいえ早いなぁ。壇くんと室町くんの会話を聞きながら、また携帯電話を弄る。
今は九時を回ったくらいだ。もう入浴も済ませたし、寝るだけだけど。

《私もたぶんそれくらいには起きてますよ。病院が起床時間早かったんで。というわけで、千石さんの体調に支障をきたしてはいけませんので。今日はおやすみなさい。ではまた明日》

「……うぅん、こういうところがいい子だなぁ」

またうっかり口に出してしまう。……もしかして、彼女の癖がうつってしまったんだろうか。

「……誰がですか?」

「はは、詩織ちゃんが」

どうやら壇くんは洗面所で歯を磨いているらしい。睨むように見てきた室町くんに正直に答えて笑ってみる。
ウンウン、そうだよね。不機嫌になるよねぇ。

「……さっきからメールしてた相手は詩織ですか」

「ウン。そうだよー」

今のは少し性格が悪かったかな、なんて反省しながら室町くんを見つめた。

……でもさ。
君は最初、彼女のことを気づかなかったわけだ。

だったら、少しぐらい意地悪してもいいかなって。
……たぶん、明日にはメールアドレスを知ってるなんていうのは、特別ではなくなってしまうんだろうけど。

目をそらしてから考え込んだ室町くんにそんなことを思った。


彼らがお互いを認識してしまったのが、本日最大のアンラッキーだ。

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