「「はいっ!」」
手塚部長の掛け声とともに手足を動かす。
相変わらず序盤は菊丸先輩が飛ばして先頭の手塚部長に並んでいた。
「英二!ペース配分を考えるんだぞ」
「にゃはは、おーいしー、わかってるよん」
「……中盤ペースが下がる確率78パーセント」
心配した大石副部長の台詞にあっけらかんと答えた菊丸先輩。そこに乾先輩がぽつりと呟けば、菊丸先輩は悔しそうに「にゃにをー?!絶対その予想外してやるぅっ」と息巻いていた。
否、喋りすぎだ。たぶん乾先輩の予想は当たるだろう。
「よぅ、マムシ。どっちが早く終えるか勝負しねぇか?」
「桃先輩。それ俺も混ざりたいっす」
「……ふしゅうぅ、馬鹿が。俺は負けねぇ」
話しかけてきた桃城と越前を一瞥してから、少しペースを上げた。後ろで「いきなり始めんのは卑怯ッス」とか聞こえたが無視する。
不意に顔を上げれば、ちょうど三階の一室に明かりがついていた。……たぶん、アイツ──夢野の部屋だ。
《心配かけてごめんね!メールありがとう!薫ちゃん、大好きですーっ》
夕食前のメールを思い出して一人咳き込む。
後で桃城も似たような返信があったと聞いたので、確実に夢野は深い意味がなく打ち込んだんだと思う。
動揺しちまったのが悔しい。今も思い出しただけで心拍数が上がるのが情けない。……くそっ、大体アイツは俺を女友達とでも思ってるんじゃないだろうか。
いつか男に勘違いされても仕方がねぇぞ。否、俺は絶対にそんな勘違いは起こさねぇ。起こしてたまるか。
「……ねぇ桃先輩」
「わかってる」
「海堂先輩、何言ってるかわかんないッスけど……ブツブツ呟いてますよね。怖いんスけど」
「……だな。ありゃあ夢野のが移っちまったんじゃねぇか?」
「ふふ、海堂が動揺しているなんて、やっぱり夢野さんって面白いね」
((……不二先輩、開眼してるし))
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