elevenさん
──菊丸さんたちと別れて自室に戻ってから、ベッド脇に転がっていた携帯電話を拾い上げて画面を見た瞬間に血の気がサァーっと引いた。
否、もう本当にどうしよう。着信が三十二件、新着メールが五十件。

ガクガクと小刻みに震えながら履歴を開けば、最新二十件の着信は榊おじさんと流夏ちゃんによるものだった。
メールも大半はこの二人からで、どれも《大丈夫か?》《無事か?》《電話に出ろ》というようなものばかりである。
あぁ、雷が鳴って私がパニックに陥っていないか心配してくれたんだろう。そして確実に流夏ちゃんに関しては、怒りにシフトチェンジしているな違いない。
とりあえずメールで二人に《ごめんなさい。私は元気です》と送信したら数秒後に携帯電話がG線上のアリアを奏でた。流夏ちゃんだ。

「平にすみません」

『心配した分は高級菓子で手を打つ。だが越前とのキスイベントは許さない。私の詩織の唇を奪うだなんて──』
「もうそのことは口にしないで下さい女王陛下ーっ」
『──ちっ』

情けない声を上げて懇願したら、流夏ちゃんはそれ以上口に出すのは止めてくれる。
なんで知ってるのかとか、最後の舌打ちとかが気になったけど、とりあえず他愛もない話をして電話を切った。
その間に一通のメールが着ていて、開けば榊おじさんからの返信だった。内容は《ノートパソコンを開いてパソコンメールもチェックしてくれ》である。嫌な予感しかしないが見てみよう。心配かけた私が悪いのだから。

その前に残りのメールをチェックしてみたら、千石さんからのメールが二件と桃ちゃん、薫ちゃんが一件ずつ。
篠山さんと及川さんからも一件ずつ着ていた。
このペンションにいる三人はやっぱり私を気遣ってくれる内容で、女の子二人は相変わらずテンションの違う内容だった。《合宿はどう?》《跡部様は今日も麗しい?あー羨ましい〜跡部様の写メ撮って〜。あ!他校のイケメンさんも〜!》……勿論、前者が篠山さん。後者が及川さんだ。

返信してから、菊丸さんと大石さんのアドレスを登録し、二人にもメールを送信した。だいぶ緊張した。初めてメールする相手に何を書いたらいいのかわからなくなる。
ふと、そういえば日吉くんは私の携帯電話に自分のアドレスを登録してくれたけれど、私の番号とか知らないんじゃないだろうかと気づいた。

《若くんって呼んだら怒る?》

ちょっとした悪戯心でそれだけメールしてみる。スルーされるかもしれないけど、反応があることを祈った。

同時に菊丸さんからメールが返ってきて、散りばめられた猫の絵文字に癒される。なんて可愛いメールなんだ。



「…………おじさん」

大石さんから几帳面な返事があったのを確認してから、持ってきていたノートパソコンを立ち上げ、インターネットに繋ぎメールをチェックした私は居たたまれない気持ちになった。

榊おじさんが動画を添付してきていて、その中身はアカペラで子守歌を歌っているおじさんだったたからである。
どうしよう。真剣な表情から、これは至って真面目なものなのだろう。
だがダメだ。
どうしても笑ってしまう。……く、榊おじさん、心配してくださったのは有り難いのですが、雷が鳴ったらこれを見ろというのは難しいです。寧ろパソコンは起動できない。雷が危ないから。


……なんか大変なものを見てしまった気分になりながら、ふと、何故かいつものチャットルームを覗いた。
そして、まさかのelevenさんを発見する。
え、あれ、elevenさん、今このペンションにいるんじゃ……っ?!

否、私と同じようにノートパソコン?とも思ったけれど、ついこの間、elevenさんが自分用のパソコンが欲しいといっていたのを思い出した。
それから榊おじさんが、一応このペンションにはパソコンルームがあるみたいなことをいっていたことも。

「……とりあえず、チャットルームに入って、そのまま繋いでいてもらわなくっちゃ」

チャンスである。

誰かわからなかったelevenさんに会える。
善哉さ──光くんにも教えてあげたい衝動に駆られながら、私は何度か言葉を打ち込んでから、その場を後にするのだった。

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