立海の真田の口癖を口にしながらおチビの部屋から出てきた夢野ちゃんが、俺にぶつかった反動で後ろに倒れる。けれど、尻餅をつく前に部屋から出てきたおチビが夢野ちゃんの身体を助け起こした。
「……間抜け」
「きぃっ!いちいち生意気な子だ!この子はっ……だが大人な私はちゃんとお礼を言う……ありがとうっ!!」
「……愚痴も全部口から漏れて台無しだけどね」
「がーんっ!」
「……それ口に出すのはさすがに痛い」
「〜〜っ!」
余計な一言を口にしたおチビに怒ったりショックを受けたりしながら、夢野ちゃんは地団駄を踏んでいた。……相当悔しいらしい。
それから俺に顔をぐりんっと向けてきた。
「き、菊丸さんの方はお怪我はありませんか?!」
「あはは、大丈夫だよんっ!……それでおチビとの話は終わったかにゃ?」
「はい、もう。寛容な越前くんは綺麗さっぱり水に流してくれると……」
「大人ッスから」
「くっ、見事な嫌み返し……っ!」
「まだまだだね」
夢野ちゃんとおチビのテンポのいい会話を聞いていたら、おチビの部屋の正面に位置する(俺と大石の)部屋から大石が出てくる。
その顔は心配そうな表情でいっぱいだった。
「大石ーっ、今から夢野ちゃん誘ってそっちに行こうとしたのに〜」
「え、そうなんですか?!」
「英二っ!夢野さん、吃驚してるじゃないか。勝手に決めて困らせるんじゃない。……すまない、えっと、俺は青学三年、大石秀一郎。青学の副部長をしているよ」
「……髪……、っ、大石さんですねっ、よ、よろしくお願いします!」
手を差し伸べた大石に精一杯真面目な顔で握手をしているけど、夢野ちゃんの目は不自然に何度か大石の頭を見ていた。いや、うん。わかるよ〜。その気持ちは。
「……んーと、夢野ちゃん、夕食まで俺らの部屋で遊ばないかにゃ?トランプ、オセロ、漫画、携帯ゲームとか……お菓子も色々あるよん!」
「え、英二……やけに荷物が多いと思ったら」
顔色が青くなった大石に笑顔を向けたら、すっごく大きなため息をつかれる。
でもでも、ちょっとぐらい遊んでもいいじゃん。息抜きだよ、息抜き〜。……勿論練習はちゃんとするつもりだし。そんなんで負けちゃうってのはカッコ悪いもんね!
「……あ、あの、菊丸さん、お誘いありがとうございます。でも、いきなり部外者の私がお部屋にまでお邪魔するのは……ごめんなさい」
夢野ちゃんは困ったようにそう言うと、俺に申しわけなさそうに頭を下げた。
「そっかぁ。……うん、じゃあメル友から始めるっ!……これならどうかにゃ?」
「あ、は、はい!それならば喜んで!」
桃と海堂が知ってるっていっていたし、これなら大丈夫そうかなって思ったものの、また断られたらどうしようと少し不安があったから、すぐにいい返事を返してくれてよかった。
携帯電話を取り出し、赤外線を送ろうと待機していたら「あ」と夢野ちゃんが声を上げる。……どうやら携帯電話が見あたらないらしく、ポケットに手を当てたまま硬直していた。
「……部屋に忘れてる、みたいです」
「そっかぁ!それなら今紙にアドレス書いて渡すから……ちょっと待って〜……ほいほいっと」
丁度ズボンのポケットにメモ帳入れてて良かったなぁなんて思いながら、メルアドを二つ分書いて手渡す。
「ありがと──え?」
「にゃはは、上が俺で下のアドレスは大石のだよん!」
「なっ?!英二?!」
夢野ちゃんが首を傾げたので答えたら、隣にいた大石が真っ赤になった。うは、どうしよう。大石がこんなに焦っているのは初めて見たかも!
「大石さん、あの、ご迷惑じゃなければ登録させてくださいっ」
「い、や、迷惑だなんて……とんでもない!」
「では今から部屋に戻って登録してメールしますねっ」
そう明るく笑ってくれた夢野ちゃんに、やっぱり可愛い子だなぁなんて思う。それからさっきから面白くなさそうな顔をしているおチビに声をかけることにした。
「おチビはいいのかにゃー?」
「……はぁ、俺、携帯持ってないんで」
軽く溜め息をついたおチビ。
……携帯電話を持ってたら、夢野ちゃんとメールしたいってことだよねー?とか口から出そうになったのは内緒だ。
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