パンダの事情
「ちゅーか、夢野さんって……あの飛行機事故の子やったんか」

「そうみたいやな。雷への怯え方は尋常やない」

謙也くんがぽつりと呟いた台詞に冷静な口調で銀さんが頷く。
同時に白石部長や小石川副部長も首を縦に振っていた。

「なぁなぁー、光はやっぱ知っとったんやろー?」

「……おん」

話を聞いてた金ちゃんが布団の上でゴロゴロしながら、俺にふってきたので頷いてやった。
勿論、入院しとったんは知っとったけど、飛行機事故の奇跡の少女本人やったんは初耳や。せやけど、親しい間柄や思われとる(思い込ませたんは俺や)から、ここは頷くしかなかった。涼しい顔で嘘ついたったから、全員信じたようやった。

ちなみに今この部屋には、五月蝿いホモップルと放浪癖のある千歳先輩はおらん。

真剣な顔で何やら考え込んでる謙也くんの顔見とったら、部長が「でもこの事は夢野さん本人には尋ねたりしたらあかんで!」と優等生みたいな発言をする。……ちゃうわ。この人こんな人やった。完璧過ぎんのが聖書みたいやねん。

「えー?!なんでー?!」

「アホ!金ちゃん、傷抉って夢野さんを泣かせたいんか!金ちゃんはでっかい擦り傷に唐辛子や山椒を塗り込むんか?そんな恐ろしいことするんか?」

「……せ、せぇへんもん。そないな意地悪……ねぇちゃんにはできひん……」

しゅんっと大人しなった金ちゃんに部長はドヤ顔をしとった。苛っとした。こういうとこはウザいねん。否、えぇ人なんはわかってんねんけど。


「なぁなぁ聞いてー!」
「つか、何お前らこんな狭い一部屋に固まっとんねん!キモっっ」

その後すぐにホモップルがやってきて、シリアスっぽい空気は見事に崩される。

「アタシなぁ、さっき詩織ちゃんと友達になったんよー!何あの子、めちゃくちゃ可愛えぇなぁ!妹に欲しいわぁ」

「…………あの女、俺の小春に色目使ってきよってん。許さへん。あいつは俺の敵や」

楽しげな小春先輩とは打って変わってユウジ先輩は機嫌が悪そうやった。つか、もう元気になったんか。詩織のやつ。

「……夢野さん、元気そうなん?」

不意に恐る恐るといった感じで謙也くんが小春先輩に尋ねる。

「え?そやねぇ。もう平気そうな顔して笑っとったわぁ」

…………まぁ、パンダやしな。

俺はチャットでのイメージもあったし、きっと元々楽天家なんやろうなと納得する。

やけど、謙也くんは違ったみたいや。大袈裟に「そうかぁ!」と涙目で大声で頷くと、勢いよく立ち上がった。

「頑張り屋さんなんやなぁ!!めちゃくちゃ健気な子やん!きっと、俺らを心配させへんために──ぶぁっ?!な、何すんねん!財前っ」

「……すんません。なんやその顔ムカついたんっすわ」

キラキラ目を輝かせて語ってんのがきしょかった。なんなん、この人、ほんまうっざい。

顔面にクリーンヒットした枕を抱きながら、謙也くんは憤慨しとる。が、知るかい。

「お、お前ー!!俺先輩やぞ?!」

「……はっ、たった一つの年の差でそんな威張られても」

「ざ、財前ーっ?!なんでお前そんな可愛くないねんーっ!」

謙也くんが投げ返してきた枕を避ければ、金ちゃんに当たった。

「枕投げ大会かー?!なら、ワイ負けへんでぇー!!」

そこから全員でいつの間にか枕投げをする羽目になる。……あー、ほんまなんでやねん。謙也くんのせいで、余計な体力使うはめになったやないか。うっざー




「…………否、お前ら……この部屋は俺と千歳の部屋やねんけどな」

副部長が隅っこで呟いていた台詞は聞こえへんかったことにしといた。

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