そういえば、昼食後に話しかけてきた切原くんは私に何の用だったんだろう。
流夏ちゃんに聞いたことがあるけど、切原くんの試合を見たら切原くんを好きだった子はショックを受けるらしい。
どんな試合をするんだろう。もしかして試合中に毎回パンツ姿を晒してしまうというような恥ずかしい事態が絶対に起きるとか。否冗談だけど。
……うーん。
どんなに考えても、切原くんと立海で話したりした覚えがない。だから、私に話し掛けた理由もわからなかった。
ただ単に、お前立海にいたよな?とか三船の友人のやつだろ?とかかもしれない。……だとしたらあの無言の間がわからないけれど。
「……ここ、です」
一人悩んでいたら、前を歩いていた樺地くんが私に振り返る。
案内されたのは、ペンションとテニスコートの中間にあるテニス用具などを収納しているらしい納屋だった。
どうやら、大型の冷蔵庫やシンクも見える。
そしてその前で大量のペットボトルを並べている縦に長い後ろ姿が二つ。その間で忙しなく動いている小さい背中が一つ。
「……えーっと、……って、樺地くんもういないしっ!」
思わず大声を上げてしまった。
だってさっきまで間違いなく私の隣にいたはずの樺地くんの姿がもうない。ちくしょう、そんなに跡部様が好きか!
いつか跡部様から樺地くんを略奪してやるんだから。三時間くらい私との会話が楽しくて、跡部様のことをすっかり忘れていたぜ!的な。
「……ほう。だが三時間とはまた短い略奪だな」
「否、だが三時間の略奪が成功する確率自体極めて低いと思われる」
「…………逆光眼鏡さんと糸目さん、ノートに私の独り言を綴って楽しいですか」
その後に「ドリンク作るのをお手伝いに来ました。跡部様のご命令で」と告げてから名前を名乗って頭を下げた。
二人がまたノートにペンを走らせて、あの小さい子が私にはにかみ笑顔で「ダダダダーンっ!山吹一年マネージャーの壇太一ですっ!宜しくですっ!」とお辞儀してくれたのを見て私は思う。
「「テニス部の人、変わった人多いよね」──とお前は言う」
ギョッとして糸目の先輩を見上げた。
「「……なんだこの人、っていうか前見えてるのかな?」──と独り言を呟く確率百パーセント」
隣にいた横長の四角い眼鏡がキラリと光を反射している。
拝啓、跡部様
私は一体どうしたらいいのでしょうか。心よりお恨み申し上げます。
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