気の置けないヤツ
「……あぁ、そうだ。宍戸!夢野の荷物を三階に運ぶのを手伝ってやってくれ」

「え」

「おう、わかった!」

「え゛」

跡部にそう言われ、バスの荷台から下ろした自分の荷物と夢野ってやつの荷物(なぜかパンダ柄の旅行鞄と楽器ケース)を持ち上げたら、長太郎と話していたらしい夢野は、ものすごい勢いで俺の前に走ってやってきた。

「持ちます、持ちます、自分で運べます!」

矢継ぎ早にそう言いながら、俺からパンダ柄バッグを奪おうとする。

何故かその勢いに、バッグを持てないようにと、つい腕を上げた。

「えぇ?!」

目を見開けながら跳ねるその姿が、なんか妙に面白い。

「ええっと、し、獅子……」

「三年の宍戸だ。宍戸亮」

「わ、私は夢野詩織──ってそうじゃないですよ、宍戸先輩、私、自分で持っていけますから!パンダ8号らの人質の解放をお願いしますっ」

「ぶっ」

必死の形相でそういう夢野に、つい吹き出しちまった。

「くっ、ははっ!なんだよ、それ!大丈夫だよ、三階に着いたらすぐに解放してやるからよ」

夢野の後ろに立っていた鳳は、今のタイミングで俺が笑っているのが不思議だというように首を傾げている。

否、お前もさっきのコイツの顔見たら、吹き出しちまうって。

いまだにポカーンとしている夢野も、何故俺が笑ったのかわからねぇようだった。

「ほら、置いていくぜ?長太郎も自分の荷物忘れんなよ!」

「あ、は、はい!宍戸さん!」


とりあえず、気の置けないやつっていうか……

一緒にいて、楽だろうなと感じた。

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