間違いメール
「…………あ?」

《流夏ちゃん、どうしよう!榊おじさんやっぱり変だよ!否それよりも、なんかテニス部の合宿について行くことになっちゃった!違う、私はヴァイオリン弾くだけ!テニス部は合宿!》

混乱しているのか、そのメール文は的を射ない。だが、わかることはある。

これが俺宛ではなく、三船流夏と名乗っていた短髪の女宛のメールだということだ。

差出人は、あの頭の中が大丈夫なのか聞きたい変な女──否違った。テーブルに頭を強打していた女、夢野である。


「……ちっ、めんどくせぇ」

ぼそりと呟いただけで、隣の席の田中がびくっと身体を震わせた。

否、ちょっと待て。

別に俺はお前に言ったわけじゃねぇぞ。

「ヒッ?!睨むなよ、海堂っ!」

「あぁ?」

否、だから睨んでもねぇぞ、おい。

クラスメートの反応に僅かに虚しくなった。

とりあえず、授業開始のチャイムが鳴る前に夢野に返事を返さねぇといけねぇ。



《俺は三船じゃねぇ》

《か、薫ちゃん?!ごめんなさい!平にすみません!!》

《それ、止めろ》

《謝るなと?!気にしてないってこと?!薫ちゃん、心広すぎるっ!かっこいい!男前!》

「……その名前で呼ぶなっつってんだよっ!!」

「うわぁっ!海堂っ、今マムシって言ったのは桃城だぁっ」

「は」

顔を上げたら、田中が半泣きになっていて、廊下から教室を覗く桃城が見えた。


……もう名前は諦めることにする。

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