《流夏ちゃん、どうしよう!榊おじさんやっぱり変だよ!否それよりも、なんかテニス部の合宿について行くことになっちゃった!違う、私はヴァイオリン弾くだけ!テニス部は合宿!》
混乱しているのか、そのメール文は的を射ない。だが、わかることはある。
これが俺宛ではなく、三船流夏と名乗っていた短髪の女宛のメールだということだ。
差出人は、あの頭の中が大丈夫なのか聞きたい変な女──否違った。テーブルに頭を強打していた女、夢野である。
「……ちっ、めんどくせぇ」
ぼそりと呟いただけで、隣の席の田中がびくっと身体を震わせた。
否、ちょっと待て。
別に俺はお前に言ったわけじゃねぇぞ。
「ヒッ?!睨むなよ、海堂っ!」
「あぁ?」
否、だから睨んでもねぇぞ、おい。
クラスメートの反応に僅かに虚しくなった。
とりあえず、授業開始のチャイムが鳴る前に夢野に返事を返さねぇといけねぇ。
《俺は三船じゃねぇ》
《か、薫ちゃん?!ごめんなさい!平にすみません!!》
《それ、止めろ》
《謝るなと?!気にしてないってこと?!薫ちゃん、心広すぎるっ!かっこいい!男前!》
「……その名前で呼ぶなっつってんだよっ!!」
「うわぁっ!海堂っ、今マムシって言ったのは桃城だぁっ」
「は」
顔を上げたら、田中が半泣きになっていて、廊下から教室を覗く桃城が見えた。
……もう名前は諦めることにする。
34/34