真田さんの筋肉と温泉
「るんらっら〜♪っ、ぐほっ」

山道をスキップしながら登っていたら、案の定転んだ。派手に打ち付けた額と右膝をさする。
それでも気分は良かった。
何故なら脱衣場を作っていただいたからである!
えくすたしらいしーさんはやはり距離を置きたい人ナンバーワンだが、それでも四天宝寺の皆さんが私のために作ってくださったのだ。感謝でいっぱいである。けっして二度とえくすたしらいしーさんの髪を拭こうなどとは思わないが。

「女子入浴中の看板をかけて……」

これでよし!とウキウキしていた私は、あるひとつの問題を忘れていた。
そう中に誰かいないかの確認である。
いくら脱衣場ができたとはいえ、ひらけた自然の温泉。見渡すだけでもすぐに確認できたというのにしなかったのだ。
だから──

「むっ?!」
「なんですと?!」

気の緩んだ私は、すっぽんぽんで同じくすっぽんぽんな真田さんとばったりしてしまった。

「すっ、ぽぽぽぽっ」

もはや人語じゃない。

温泉は濁り湯。
私の精一杯は湯のなかに全身をダイブさせることだけだった。

「夢野!だ、大丈夫か?!」

「だ、だひぼうぶでぶっ」

「すまん!俺はもう出る!!」

「ば、ばだびももぼごぼぉっ」

私の方こそすみません!!
と心のなかで叫びつつ、頭の中には真田さんの筋肉質な裸体がぐるんぐるん回っていた。
むしろ、見てしまった。
もう何をとか、はっきり思考に出すのも恐縮過ぎるが、とりあえずすっぽんぽんだった。全裸だった。男の子の全部を直視してしまった。
しかもあの一瞬で、私の視線はすべてをとらえてしまったのである。
見られた、の前に見てしまった方が衝撃的だった。

温泉でばったりは、神尾くんで経験済みだが、それとこれとは大きく違う。だって神尾くんの時は肩と背中の辺りぐらいをぼんやり見た感じで。
真田さんの場合は……

「むぁーっっ!!」

危うく死ぬところだった。
水中に潜ったまま、窒息するところだった。

「……っ、夢野、今度からは誰かいるか
確認をしろ」

脱衣場の木の板の向こう側から、真田さんの声が聞こえる。少しいつもより声が上ずっている気もするが、間違いなく動揺されているからだろう。
私のこんな傷だらけな体を見てしまった上に、私に全裸を見られてしまったのだから、仕方がない。
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「必ず、確認をいたしますっ、ごめんなさいでした!!」

「う、うむっ」

それから真田さんが小さな声で「……俺は今から向こうの滝に打たれてくる」と荒行を口にして吹いた。

冗談かと思ったら、数分後に「心頭滅却すれば火もまた涼し」と聞こえたので、温泉の岩影から隠れて覗くと真田さんが本当に服を着たまま滝に打たれている姿が見えた。

どうしよう。
もうこれは責任をもって、無人島から脱出したあと真田さんちに突撃して「あなたの息子さんを私にください」しなければいけないかもしれない。
割りと本気で考えたのだった。

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