百聞は一見に如かず
──まさかこの船に夢野がいたなんて思いもしなかった。
いや、青学の菊丸さんたちが俺ら立海が到着する前ぐらいまで、見送りの挨拶に夢野が来ていたという話を自慢気に言っていたのは知っているが。

「……なぁ赤也。幸村くんたちがいない内に、幸村くんとどういう関係なのか聞いてこいよ」

「な、お、俺がッスか?!」

夢野の姿を目で追っていたら、丸井先輩が肉を頬張りながら俺に無茶ぶりしてきた。
……つか丸井先輩は肝心な時いつもこうだ。
自分ができねーことを俺に言うなんて、酷すぎる。

いやでも幸村部長との関係はずっと気になってたつぅか、なんで幸村部長の機嫌が夢野の話題で左右されんだよと聞きたかったのは事実だ。
それに今、少し肌寒いからとカーディガンを取りに行った幸村部長に真田副部長と柳先輩が付き添っていて、夢野本人に尋ねるとしたら今しかないとは思う。


「……って、だからなんでいつも囲まれてんだよっ」

教師陣の近くのソファに座っている夢野に四天宝寺のヤツらが群がっていた。
何やら緑色のバンダナをつけた──確か一氏さんっつー人が反省中と書かれた木の札を夢野の首に紐みたいなものでぶら下げている。
それから千歳さんが夢野の頭の上にトトロのぬいぐるみを乗せていた。
……いや、何してんだ。マジで。

そこに氷帝の一部のメンバーがやってきて、また夢野の周りが騒がしくなる。

幸村部長以外にもなんで仲良いんだよと聞きたいヤツは数人いるわけで。
ジャッカル先輩を盾に突撃しませんかと丸井先輩に相談したところで、俺はもっと早くに行動しなかった俺自身を恨むことになった。


──百聞は一見に如かず


ことわざなんて苦手だし、意味わかんねぇし。
だけど、そん時はその言葉がしっくりきた。


「……夢野、さん?どうして君がここに」

「……へ?ゆ、幸村さん?!」

幸村部長が広間に戻ってきたのだ。
もちろん、真田副部長と柳先輩も一緒である。

「……アーン?夢野、幸村は立海テニス部の部長だぞ。知らなかったのか?」

素っ頓狂な声を上げた夢野に、跡部さんが眉間にしわを寄せた。
それに対してさらに夢野は変な声を上げる。

その間に柳生先輩たちに事情を聞いたらしい幸村部長は、薄い笑みを口元に浮かべながら夢野の前に歩いていった。

そしてこう言い放ったのだ。


「夢野さん、君に会えて嬉しいよ。……少し二人っきりで俺と話せないかな……?」


幸村部長の微笑みは見たことないぐらいに穏やかで。
そして言葉の節々には周囲の人間への圧力がかかっていたのだった。

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