「マジマジごめんね〜?!」
心配してくれている金ちゃんとジロー先輩にいつも通りへらへら笑って大丈夫だと答えたら、何故か余計に謝られた。
……不気味だったんだろうか。かなりショックである。
「……それ、冷やしたら?」
「え?あ、リョーマくん、ありが十匹ー」
「やっぱやらない」
「ごご、ごめんなさい、リョーマ様!ありがとうございますっ」
落ち込んでいたら後ろから髪の毛を引っ張られて、振り向いたらリョーマくんが水に濡らしたハンカチを差し出してくれていた。だからその優しさに動揺してしまったわけである。
しょうもないことを口にしたことを平謝りすれば、リョーマくんは帽子を深々と被りなおしていた。
頬にハンカチを当て、ひんやりとした気持ちよさに目を細める。
とりあえず、やたら注目されている気がするのでにじにじと移動することにした。
「……っ、なんだ」
「若くん、私の壁になって」
「なんで俺が──……っいや、わかった。好きにしろ」
広間の壁際に立っていた若くんの背中に隠れることに成功する。
すぐ近くに鳳くんや宍戸先輩がいるので、何やら安心感に包まれた。
先ほど私の中で英雄と化した岳人先輩に頭を下げたら、隣の忍足先輩とともに私の壁になってくれる。
さすが岳人先輩、忍足先輩。空気読んでくださったんですね!
暫くして、手塚さんと話していた跡部様がパチンっといつもの指ならしをされた。……何故それで皆さん黙るんだろうか。不思議である。
「すまねぇ。あそこにいる女は氷帝の生徒なんだが、間抜けな理由で乗船しちまったようだ。まぁあいつを知っているやつらがほとんどなので説明はいらねぇだろうが……島についたらあいつには引き返してもらうつもりだ。この場に関係ねぇやつが紛れ込んで悪かったな。……じゃ、食事を続けてくれ」
再びパチンと鳴らされた指。同時にまた一斉にざわざわと騒がしくなっていく。
「……ウス」
ぐるぐるとお腹の音が鳴ったと同時に、若くんの前に樺地くんが立って私と若くんにそれぞれ料理を乗せたお皿を手渡してくれた。
「樺地くん、ありがとう!あ、あれ?若くん、まだ食べてなかったの?」
「……お前が壁になれって言ったんだろ」
「ふふふ、日吉、顔赤いけど」
「ここが暑いだけです」
ニヤニヤしている滝先輩に若くんが吐き捨てるように言う。
もしかして若くんも私がタマちゃんたちにからかわれたように滝先輩にからかわれているんだろうかと驚いた。
……だとすれば、なんでもかんでもお隣さんである若くんに頼る私のせいだ。
「ご、ごめんね、若くん。私のせいで迷惑を……」
そろりと背後から抜けて樺地くんがくれた料理を口に放り込む。
なんて美味しいんだろうか。さすがだ。
「……別に」
ふんっと鼻を鳴らして若くんは私の皿に乗っていたサーモンのマリネを強奪した。もぐもぐと動く若くんの口元を凝視する。
「……な、何故拙者のサーモンを」
「迷惑かけたと思ったんだろ」
「え、それは確かに……でも若くん別にって」
「あぁ、そうだな」
またニヤリと笑った若くんは、今度は私のステーキをフォークで刺して口に持っていった。
……お、おのれ許すまじっ!
「わ、若くんに気を使った私が馬鹿だったぁ!」
「フンっ。お前がいつ俺に気を使うなんて芸当をした」
「きぃぃいっ」
「あ、あの、夢野さん、まだたくさんあるから……」
地団駄を踏んだ私に鳳くんが苦笑している。だがこれは料理の問題ではないと思うんだ。
「……詩織、可哀想になぁ。ま、苺でも食べて落ち着き」
涼しい顔をしている若くんを睨んでいたら、光くんが手招きしていて、そばにいったら苺をたくさんくれる。……美味しい。
振り向いたら若くんがめちゃくちゃ睨んできていた。……え、あれ。おかしいな。意地悪されて怒っていたのは私なんだけど。
どうしよう、怖い。
「……怖いのは深司の方だ馬鹿。お前のせいでぼやきが増してるだろ、どうにかしろっ」
いつから独り言になっているのかわからないが、神尾くんが走って私の頭を殴ってきた。
「あぁ、深司ってEveか」
「お前は──」
「──神尾。四天宝寺の財前だよ。言っただろ、例のアレ」
「なんやねん、アレって。リアルの方がムカつくっすわ、その喋り」
「……これが普通の話し方なんだから、仕方がないだろ……むしろそっちの関西弁の方がイライラするんだけど。わかってないんだろうなぁ……」
神尾くんに続き、深司くんがやってきて何故か光くんと険悪な雰囲気を醸し出し始めた。
オロオロしていたら、十次くんが苦笑しながら近付いてくる。
「……夕食しっかり食べた方がいいんじゃないか?」
「そ、そそそうだよね!いただきますっ」
助け舟だとばかりに大声で頷いて空いたお皿に唐揚げやステーキを乗せた。
「おいおい、そりゃあ食い過ぎだろー」
顔を上げれば桃ちゃんである。
隣には薫ちゃんがいて「……アンタ、食べっぷりいいな」と言われ、誉められたのか引かれたのかわからなかった。
「……素敵なステーキ……ぷっ」
「ダビデぇっ!!」
次に目の前で天根くんがバネさんに跳び蹴りされる。そして六角の皆様に会釈された。
それから視界の端でさっきから乾さんがメモを取っていて怖い。どうやら柳さんの姿は見えない。ついでに真田さんもいないみたいだった。
「……そして、柳生さんこんにちは。後ろの仁王さんは何してるんですか」
「あ、え、えぇ。こんにちは。夢野さん」
「プリ」
柳さんの姿を確認した際に柳生さんと仁王さんが押し合いしていたのが目に入ったので、声をかけてみる。
でも相変わらず仁王さんはよくわからなかった。
……とりあえずいろんな人に声をかけられ、当たり前だが男の子ばかりなので、もうどうしたらいいのかわからなくなった。
耳元で「んふっ」という観月さんの笑い声が聞こえた瞬間には限界がきていて、ダッシュで榊おじさんたちがいる先生方ゾーンに逃げ出したわけである。
「……あ」と声を上げていた裕太くんは、もしかしたら私に用事だったのかもしれない。
だけどもう緊張して呼吸が変態みたいになってきていたので許して欲しいと願ったのだった。
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