「お前は一生似たような点数のままだろうな」
また独り言が発動していたらしい。
返却されたテスト用紙たちと睨み合っていたら隣から若くんの冷たい声が飛んできた。
「むぅ。そんな冷たいこと言うなら、テスト前に勉強教え──はっ!ちーちゃん、タマちゃん!夏休みの宿題一緒にしよう!そして、今度からテスト前は勉強教えてください!」
「はいはい。丸写しするとか言わないところが好きよ」
「?!その手があったか──あぎゃっ?!」
ちーちゃんの微笑みに大声をあげたら、若くんにノートで叩かれた。
クラスのみんなが一斉に笑ってくる。
……う、うぅ。
きっと若くんに殴られるから余計に私、馬鹿になるんだ。
「……篠山たちに頼まなくても、俺が──……ちっ」
──明日から夏休みだけれど、テニス部のみんなは強化合宿に行くことになっているようだ。
私は夏休み終わりにあるコンクールを目指して練習するつもりである。
久しぶりのコンクールということもあって、すごく緊張するけど。
それから流夏ちゃんの陸上部の応援と、ちーちゃんとタマちゃんとプールに行く予定もある。その時のためにラッシュガードも買ったし。
もちろん、合宿後にあるらしいテニス部の全国大会の応援にも行くつもりだ。
おぉ、なんて充実した夏休み……!
ヴァイオリンを弾きながら、私はウキウキとしていた。
なにやらくすぐったい気がするけれど、気力に満ちている。
今ならコンクールなんて目じゃないかもしれない。いつもの調子で弾けそうだ。
不意に部屋の中のパソコンに目がいって、あの日以来yukiちゃんを見ていないなと気になった。
俺と一人称を使っていたからyukiくんなのかもしれない。
後で流夏ちゃんに相談したら、小さい頃は私も俺を使ってたことがある。男の中で混じって遊んでたからと言っていたから、女の子の可能性はまだ残っているわけだけど。
……でも、なんとなく、私の頭の中にはある人の姿がぼんやりとあった。
私のヴァイオリンを知っていて
ガーデニングが趣味で
入院している中学生
初めてチャットした時に関東であることも聞いていたし、一つ年上だとも話していた。
だから
「…………幸──」
声に出しかけた名前を飲み込んで、私はパソコンを起動する。
……確信したら、急に怖くなった。
《yuki:ヴァイオリンを弾いていた君はいつも輝いていた。……だけど君はまたその時よりも強い光りになるんだね。……絶望の中をも照らす光りに。……やっぱり俺には君が必要みたいだ》
重くのし掛かるような圧のある言葉。
……私は知らず知らずの内に人を傷つけてしまうかもしれない。
やっと自分の殻から抜け出せたような人間なのに。
悲壮な音楽が、彼の言葉から聞こえた気がした。
まるで心が泣いているようだ。
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