その顔は泣きそうになっているが、それが余計に滝を面白がらせているようだった。
それに便乗してか、忍足とジローがやたら「可愛い」を連発している。その度に狼狽える夢野がまた楽しいんだろう。
「アーン?最後はメイド服なのかよ」
「うん。なんか榊監督がわからなくなるよね。姪っ子に何を求めてるのか」
「……ますます俺、監督をまともに見れなくなってきました……」
三着目がメイド服だった。といっても、跡部んちで見るロング丈の落ち着いたものではなく、何やら短い丈のひらひらのスカートにレースがたくさんついたものだ。
跡部と滝が溜め息をつけば、長太郎が深刻な顔でぽつりと呟く。……ま、まぁもともと変な人だけどな。榊監督は。
「…………もう着替えてもいいですか?」
忍足とジロー、それから岳人の褒め殺しに耐えきれなくなったのか、切実に夢野が滝に願い出る。
「うん、いいよ。でも普段着は持ってきてないけどねー。この部屋に」
「ぉ、おぉぉおぅ……っ!」
滝が笑顔でさらりと返した言葉に夢野はがっくりとうなだれた。
あまりにも大袈裟なそれについ笑っちまう。
すぐ近くにいた日吉も隠れて「馬鹿だ」と笑っていた。
「くくっ!……っはー、そんな格好したら女なんだなーって思っちまったが、やっぱり夢野は夢野だな」
落ち込んでいる夢野の背中を叩いてそう言ったら、横にいた長太郎が「……それは」と俺の顔を見つめてくる。
「……な、なんだよ」
「宍戸さん、さすがに夢野さんに失礼ですよ。確かに変わってますが、夢野さんは女性ですから」
「……地味に鳳くんのもダメージになるんだけど……」
ふっと遠い目をした夢野。
周囲を見回せば、目のあったジローに「酷いCー」と冷めた目で言われた。
「……ち、ちがっ!ちげーよ!俺はそう言う意味で言ったんじゃねぇぞ!ただ今日の格好は、ほらっ、なんか女女してるだろ?!俺、こういう系は苦手っつーか」
だから普段女に見てねぇってことじゃなくて……と続けようとしたが、それを口に出したら、夢野のことをまるで女として意識してるみたいじゃねぇか?!と考えついて口を噤む。
忍足が俺の思考を読んだかのように「で?なんやの?」と口角を上げていた。てめー、後で覚えてろよ!
「……ふ、普段のコイツの方が俺はいいっつーか、その方が自然ぽいっつーか、その──」
「あぁ、宍戸さんは普段の夢野さんの方が好きだってことですね!」
「──だぁああっ!長太郎、お前ちょっと来いっ!!」
「あー、……宍戸先輩ーっ、大丈夫です。私、そんな恐れ多い勘違いなんてしませんからー」
私も純情な好青年の宍戸先輩が好きですよーと続けて言ってきた夢野がちょっと嫌いになりかけた。
…………気を使おうと必死になった俺が馬鹿みてぇじゃねぇか。くそう。
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