関西のノリと空気は好きだが、いい加減食中りのようなものを起こし始めていた私は、斜め前に座っている千歳さんに話しかけてみた。彼はあの障害物競争で五位だったから、跡部様が言っていた特別メニューというものを皿に乗せている。ビュッフェだけでも豪華だなぁと思っていたのに、まさか特別メニューにてキャビアやフカヒレが食べ放題だとはなんということだろうか。
普通に羨ましいんですけど、という視線を込めた私に千歳さんは「うーん」と首を傾げられる。
「あんましうまかつなかよ……もなかね」
……それがもなかじゃないことはわかる。
たぶんあんまり美味しくないとでも言いたいのだろうか。跡部様を背後にして千歳さんは何を言っているのだろうか。否、むしろシェフの人たちも頑張って作ってくれただろうに。……まぁ口に合わないという意味で言っているのかもしれない。なんとなく千歳さんと高級食材はイメージが合わないし。
だがしかし、私は羨ましい。金ちゃんも隣で食べたことのないものを食べている千歳さんをよだれ垂らしながら眺めている。……他の人たちは思いの外騒いでない。
「っ!」
「…………」
同じテーブルに座っている四天宝寺の人を見回していたら、忍足さんと目があった。速攻で視線を外されたが確かに目があった。
……なんだろうか。
何故か慌てて熱いスープを飲もうとした忍足さんは、その熱さに飛び跳ねてテーブルに肘をぶつけて痺れさせて呻いている。どうやらファニーボーンを強打したらしい。隣の一氏さんに「……なにしとんねん」と冷たいツッコミをされていた。……ちょっと可哀想だ。
「……あの、忍足さん、大丈夫ですか」
「っ、だだだ大丈夫やで?!」
「はっ、何一人コントしとるんっすか」
私が声をかければ、忍足さんはまた慌てて今度は手からお箸を飛ばす。それを見た光くんが鼻で笑った。
「……少し落ち着いたらどうや」
「ななな、何がや?!白石っ俺は落ち着いとるで?」
「「どこがやねん」」
うっかりその関西弁ツッコミに混ざってしまったが、殆どの人がそう言っていたせいか、どうやら私が口に出したことは左隣の光くんにしか聞こえなかったらしい。右隣の金ちゃんはたこ焼きを頬張るのに夢中で、そもそもその会話に参加していない。
……それよりも、話すたびに挙動不審な忍足さんは、もしかして……あれなんだろうか。
彼が元々女子と話すと緊張されるタイプの人なのか、自意識過剰の範囲でいくと、まさかの私に少なからず好意を抱いて下さっているのか。……否、だが好意を抱かれるほどお話もしていない気がする。やはり、前者の思春期真っ最中の男子なんだろう。
「…………」
「……え、な、何?なんでそんな見つめてんの?あ、あああの夢野さん?」
「……いえ、だとしたら忍足さん、すごく可愛いなぁと思って」
「え?!」
「「は?」」
うっかり見つめてそんな発言をしてしまった。
忍足さんに驚かれるのはもっともだが、何故他の人たちも目を見開く。
「…………これのどこが可愛いんや」
無表情で忍足さんを指差したのは、一つ向こうのテーブル席で跡部様の隣に座っていたはずの忍足先輩である。
だが、ここで本人を前にしてシャイなところが可愛いですなどと言えるはずもない。それを口にしたら、忍足さんが可哀想なことになってしまう。
「…………え、えっと、詳細は言えませんが、私のこの可愛さ基準のナンバーワンにいるのは、若くんですよ」
「っ、げほごほっ!」
若くんのあのツンデレ的な優しさは、思春期男子の可愛さとして私の中でダントツである。
それを含めてそう発言したのだけど、冷静に考えれば今のはいらなかった。盛大に噎せている若くんを視界に入れながら、シーンとした食堂に嫌な汗をかく。
…………とりあえず、後で忍足さんと若くんに謝りたいと思います。
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