ベートーベン
「……好きなんだ」
「ほ?むごふぅっ」

「「「はぁ?!」」」

盛大に噎せた夢野と周囲の反応につい眉間に皺が寄った。

「……今朝、お前はベートーベンのヴァイオリンソナタ第五番ヘ長調を奏でていただろう。俺はクラシックの中でも特にベートーベンが好きなんだ」

それからそう続ければ、食堂の椅子から身を乗り出すようにしていた菊丸が「にゃんだぁっ!紛らわしいよっ、手塚〜っ」と叫んでいる。……何か俺は紛らわしかっただろうか。
他にも何人にもため息をつかれていて、少々腑に落ちない。

「……そ、そうだったんですか……この人常に真顔だから苦手なんだよなぁ……」

「……すまない。俺は普通にしているつもりなんだが」

「え!」

「……詩織ちゃん、全部口から出てるC〜」

「ギャー!!違うんです、そういうつもりではっ、うぅうっ、神様仏様跡部様ーっ」

慌てて夢野は前の席にいた跡部に掌を合わせ念じ始める。跡部はもの凄く深い溜め息を吐き出してから、俺を見た。

「……手塚、それで何がいいたいんだ」

思わずその台詞に言葉が詰まる。

そうだ。
俺は食堂から出て午前練習の準備を始めようとしていたのだ。
だが視界に彼女が入り、つい早朝ランニングの時に感じたことを伝えようと、無意識に体が動いていた。

「……否、夢野の音色は不思議と元気が出ると伝えたかっただけだ」

「わかるC〜っ!マジマジ俺もそう思ってるC〜っ」

「クソクソ!なんでジローが本人より嬉しそうなんだよ」

夢野の両隣に座っている芥川と向日が騒いでいたが、本人は何故か口を半開きにし、真っ赤な顔で俺を見上げていた。

「おあ、りがとうございます……っ」

「……いや、思ったことを口に出しただけだ。では俺はいく」

騒然としていた周囲も妙に静かになっていたような気がしたが、よくわからずその場を去ることにした。





「……手塚を笑わせるなんて、お前やるじゃねぇの」

「え、やっぱり笑ってましたよね?!私の幻覚じゃなかったんですねっ!つい忍足先輩がくれた苺に何か盛られていたのかと……っ!」

「…………なぁ詩織ちゃん、泣いてもえぇ?」

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