*宵闇の騎士は

――今日はバイト先をお休みさせていただいている日でしたので、私は前々より気になっていたお店に入ることにしました。

実はそこは可愛らしいぬいぐるみばかりを扱う、とてもファンシーなお店で。

本当はかすがちゃんに一緒についてきていただく予定だったのですが、あまりにも甘ったるい雰囲気だったからでしょうか……。

「私はパスだ!」

と足早に逃げられてしまったのです。








『……ふふ、この子の名前は何にしましょうか〜』

手に入れた可愛らしい黒猫さんのぬいぐるみを胸にギュッと抱きしめながら、少し薄暗くなってきた帰路を歩く。

いつもより、少し長い道のりになってしまいましたが、特に苦だとは考えず、黒猫さんのお名前を思案していました。

だから、まさか……私がつけられている、なんて思いもしていなかったのです。


誰もいない近所の公園に差し掛かったところで、不意に私の足元に人影が伸びて

『……っ』

悲鳴をあげることも叶わず、私の口は太い指の大きな手に塞がれていた。

『ん、んー?!』

「くくっ、さ、さわぐなよ。ちょっとだけ我慢して、ね?」

もう一つの手が腰に回されて、撫でるように上に……やがて胸を揉まれる。

き、気持ち悪いです!

耳元に当たる、ふんふんっという荒い鼻息も……

妙に汗ばんだ手のひらも……っ


「はぁはぁ、あぁ、ほんとうに可愛い……胸、こんなに大きいなんて……悪い子だぁ」

『んんっ?!』

ぷちん、とボタンを外される音がしました。

わ、私、この知らない人に、もしかしていかがわしいことをされてしまうのでは……っ?!

なんだか、高校生になってからこんなことばかりな気がします。

嫌です、誰か……っ!


「はぁはぁ、あぐぅっ?!」

『っ、ふぁ』

「……」

急にがくんっと、私の背後にいた男性の力が抜けて。

地面に崩れるように倒れ込んだその人を呆然と見つめる。

「……(ぽんぽん)」

それから、不意に頭を撫でられて、やっと私を助けてくれた人を視界にいれることが出来ました。

『……あ、あひ、ありがとうござい……ますっ』

迂闊にも、私は泣きながらその人に抱きついてしまいました。

「……(なでなで)」

何も言わずにただ黙って私の頭や背中を撫でてくれた人は、とても優しい匂いがして。


本当は知り合いのようで殆ど知らない人なのに、すごく温かい。

そう、私を助けてくださったのは、バイト先の常連さんのお客様だったのです。


『……あ、あの、気が動転してしまい、抱きついてしまってごめんなさい』

「……(ふるふる)」

無言で首を振るわれた後、彼は颯爽とその場を去ってゆかれました。


『……宵闇の羽の方でしたよね』

彼が去っていた方角を眺めながら、私は再び深々と頭を下げる。

彼を詳しく知ることになるのは、このもう少し後……でした。
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