*遅れた誕生日

『え?私の誕生日ですか?……皆さんが来られた日がそうだったんですよー』

前田に生まれた月日を尋ねられた夢子は、ただ笑顔でのほほんと答えた。

そのため尋ねた前田もその話を聞いていた他の面子も、俺を含めて一度固まる。


では夢子は、その数日前に継母から毒を飲まされ、生死をさまよっていたというのか。

それなのに何故笑顔なんだ。

「……honey、笑い事じゃねぇだろ?」

俺と同じ意見だったのか、伊達がそう言えば真田も大きく頷いていた。

コイツらと同じだという時点で死にたいぐらい嫌だが、表情には出さない。

「夢子殿、今からでも遅くはありませぬ。祝いましょう」

『え、気にしないでください!来年祝っていただければ……』

「まぁまぁ、夢子ちゃん!旦那らは騒ぎたいだけだから」

張り切る真田や前田に夢子が困惑したような表情を浮かべたが、すぐに猿飛が気にしないようにと言葉を続ける。

息抜きだと言われれば、夢子も断ることはできないだろう。

尊敬はしないが、さすが猿飛だとは思った。

「……ねぇ、風魔。絶対今俺様を馬鹿にしたよね?ね?」

「……(こてん)」

首を振らない代わりに首を傾げてやったら、猿飛はイラっとしたらしい。
狙ってやったのでそれでいい。





「はははっ、すごい料理の数だな!」

言い出してからが、やたら早かった。

徳川はほとんど何もしていないが、夢子も徳川に楽しそうに相槌を打っているので、放っておく。

「フフフ、では……無礼講ということでしょうか……?」

「……っていうか、アンタら本当は酒が飲みたかっただけだろ?」

明智が既に飲み始めた面子を見回しながら、意味深に笑えば、後から来た菊一がため息を吐く。

長曾我部と黒田、今さっき明智の目がお前らに向けて怪しく輝いたぞとは口に出さない。

明智の手に握られている鎌も見えなかった。


「……夢子君、三成君、二人ともしっかり食べないと」

『は、はいっ』
「はいっ、半兵衛様」

相変わらず食の細い石田は放置したとしても、どうやら夢子もあまり口にしていないようだった。

「……(こてん)」

『い、いえ!気分が悪いわけではないんですよ!大丈夫です!雰囲気に酔ってしまっただけですから』

俺が首を傾げれば、夢子は頬を朱色に染めながら、そう答える。

いつもと同じく騒がしいだけのような気もしたが、夢子の誕生日を祝う席だから彼女は喜んでくれているのかもしれない。

そう思えると口元が緩む。

「夢子、これも食べてみてくれ」

『はいっ』

片倉が新しく運んできた料理を口にし

「我も食す」

『はい、元就さん!』

それを欲した毛利に食べさせる。

……後で毛利は制裁するべきか。やはり。

「ヒヒ、夢子よ。ぬしも飲みやれ」

『はい……って、え?』

そして大谷に酒を飲まされた。

夢子が酔っ払ったら厄介なのを知っている面子は一気にあわて出す。

「…………(すっ)」

さて、そろそろ俺の役目のようだ。

とろんとした瞳に苦笑しながら、そっと部屋まで運んでやることにする。


「……、…………(夢子、生まれてきてくれたことを感謝する)」

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