*笑顔の絶えない夕餉
――今日は鍋パーティーなのです。
「んー、離れで鍋するのは初めてですねぇ」
『はい。菊ちゃんの民宿では一度食べましたねっ』
菊ちゃんに笑顔で返しながら、私は白葱をザクザクと切った。
「夢子、今日は冬真も一緒に食べるのか?」
『あ、はい。小十郎さん。父は桐谷さんと一緒に三十分後くらいに到着すると』
ピンク色のエプロンを身につけた小十郎さんに答えながら振り向く。
ちょうど私の隣で佐助さんが椎茸や豆腐に包丁を入れ終わっていた。
「……なぁんか、あの桐谷サンって人の視線嫌なんだよねー」
「忍クン、アタシもあの人苦手だ。こんなとこで気が合うとはねー」
菊ちゃんが肩をすくめて鍋の出汁を味見する。
私はお二人のセリフに苦笑するだけだ。
桐谷さんはあまりよく知らない人だから、何も言えないのです。
「…………」
『あ、ありがとうございます』
大きな土鍋を運ぶのは、小太郎さんがやってくださった。
鶏肉などはもう既に中に入っているので、その他の野菜などの材料を小十郎さんが運んでくださる。
「……夢子、菊一、そしてみんな。こんばんは」
ふふっと笑いながら、お父さんが登場。
後ろにいた桐谷さんは、私と目があった時に丁寧に一礼してくださった。
「ははっ、これで全員だな!」
お腹が空いたと笑う家康さんについ微笑む。
『では』
「「「「「いただきますっ!」」」」」
皆さん全員でのいただきますは、なんだか胸が温かくなった。
「ふぁ……んまいでござるぅっ」
「ばっ?!幸村っ、お前こっち飛んできたぞ!」
「あぁもう、鬼の旦那ごめんねぇ?……旦那っ、ほら言ってるでしょ!お口の中に食べ物詰めて喋らないの!」
元親さんと佐助さんにそう言われて、しゅんっと小さくなった幸村さんは相変わらず小さな子みたいで可愛かった。
「ヒヒッ、暗……たんと野菜も食せ」
「あれ、何これ、なんか涙出てきた。泣いていい?せめて夢子の胸の上でぇ?!」
「あぁ、ごめん。官兵衛君。うっかり鍋のふたを落としちゃったよ」
刑部さんと半兵衛さんに挟まれている官兵衛さんが何やら泣いていらっしゃいます。
「……ふふ、仔羊。お玉を取っていただけますか?」
『あ、はい。どうぞ』
オロオロしていたら、光秀さんに話しかけられて、お玉を手渡した。
光秀さんが絹豆腐を食べている姿は、妙に似合っている気がします。
「Hey、小十郎!野菜を追加してくれ」
「はっ、政宗様」
小十郎さんの育てられた野菜が何種類かあるためか、政宗さんにそう声をかけられた小十郎さんは、どこか嬉しそうだった。
それについ口元が緩む。
「……それにしても、前から想っていたんだけど、菊ちゃんって料理うまいよね?」
「……今更だな前田慶次」
『菊ちゃんはいいお嫁さんになれますねっ』
慶次さんの言葉に同意を込めてそう言ったら、何故かお父さんを含めてみんな口を閉ざされた。
菊ちゃんは私から目線を外し、慶次さんは苦笑。
一人、桐谷さんは黙々と鍋をつついていらっしゃった。
『……えっと?』
「……夢子よ、気持ち悪い想像をさせるな。……それよりも、我の器が空ぞ」
『あ、は、はい!』
私が首を傾げたところで、元就さんがため息混じりに私へ器を渡される。
「……い、否、毛利。貴様何を平然と夢子に入れさせているっ?!」
「ほ、ホントだぜ?!元就、お前ってやつは……っ」
三成さんや元親さんが元就さんを見られたが、元就さんは無視されていた。
それを眺めていただけの菊ちゃんが、突然私から元就さんの器を取り上げて、椎茸ばかりをわんさか盛る。
……元就さん、すごい怒りました。
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