初々しい新婚ライフ

 カチコチカチ。時計の音が響く部屋の中で、てきぱきと手を動かしていく。
 料理は隣のお姉さんに教えられたとおりにできたし、洗濯物も全部取り込んで後は畳むだけの状態。
 あの人が帰ってくる前には終わらせなくてはいけない。なんせ社会人ということで多忙な恋人だ。彼と一緒にいる間はゆっくりとしていたいと思うのは、仕方ないだろう。
 大学から帰って、買い物をして料理を作る。洗濯物はなるべく太陽が落ちる前に取り込んで、夕飯を作り終えてから畳んでいく。
 不器用な自分が、一ヶ月間なんとか時間までに家事を終わらせることができているのは、奇跡なのかもしれない。そんなことを頭の片隅で考えながら、次のシャツに取り掛かった。

「夕飯、洗濯物、お風呂。うん、完璧!」

 そうして、時計の長針が七を差した頃。洗濯物も終わり風呂も沸かした。課題のレポートも終わってる。我ながら頑張った、と出来栄えに喜んでいると玄関のチャイムが鳴った。

「あ、」

 もうすぐ帰宅だと温めていたシチューにかけていた火を止めて、タオルで手を拭いて玄関へと向かう。
 ドアスコープを覗けば、どこか緊張気味の恋人。年上なのにどこか可愛い彼にふわふわとしたまま、電気を点けて鍵を開けるとドアノブが動いて、ゆっくりとドアが開いた。

「……ただいま」
「おかえりなさい」

 帰宅が嬉しくて笑みを浮かべながら応えると、彼の緊張で固くなっていた身体から力が抜けて照れたように顔が赤くなった。
 そんな彼からカバンを受け取って、冷たい風が吹く外から早く暖かい中に入るように促すとぎこちなく玄関に入ってくる。
 同棲を始めて早一ヵ月。まだまだ初々しい様子に愛しさが募って、なんだかむずがゆくなってしまう。

「淳一」
「ん?夕飯ならできてるよ。今日は寒いからシチュー!」
「あー、……そうじゃなくて」

 何か言いたげに揺れる視線にようやくああ、と気が付いて、頬に「おかえりなさい」のキスを一つ。そうすると、「ただいま」の言葉と一緒に額にキスが返された。

「……」
「……」

 新婚さんみたいなことをして、二人で照れて少しだけ沈黙が落ちる。気まずいとかそんなものじゃなくて、ほんやりとした穏やかな雰囲気。

「……飯にするか」
「……うん!」

 まだ顔を赤くさせたまま、それを誤魔化すように一度咳払いをしてから横を通り過ぎてリビングに向かう。急く背中を追いながら、隠せない赤い首筋に小さく笑みが漏れた。


end


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