ずーっと、あなたが好きなんです──

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 剣道部の練習が終わるまで、図書室で勉強をしてみんなを待つ──それが日課になっている。

 最近では、その日課に一緒につき合ってくれる心強い友人たちが増えた。

「ねぇ、ミツバちゃん! この問題教えて欲しいアル」

 留学生である神楽ちゃんが苦労しているのは、やっぱり国語で。中国にはない平仮名で、よく躓いているように思う。

「ミツバちゃん、この文法意味分かんないんで教えて欲しいっス!」

 また子ちゃんは、不良と噂の高杉くんたちとよくつるんでいて(鬼兵隊とかいうグループみたい)学校をサボりがちで、勉強に着いていけないところがあって。よく私や妙ちゃんに分からないところを訊きにやってくる。不良なんて噂だけで、また子ちゃん本人は凄くいい子だと思う。そもそも、また子ちゃん自身が周りの評価なんて全く気にしていないのだけれど。

「ミツバちゃんって、身体は弱いかもしれないけれど、頭はいいし女らしいし誰にでも優しくて美人で。告白とかも良くされてるじゃない? それなのに、10年以上も同じ相手に片想いって……土方くんだって、ミツバちゃんのこと好きっぽいのに。ずっと今のままで、本当にいいの?」
「妙ちゃん……十四郎さんは、別に私のことなんて」
「んもうっ! ミツバちゃんは自信なさすぎなのっ。もっとアグレッシブに行きましょうよ、さっちゃんが今からお手本を見せてあげるから! ホラちょうどいいところに先生がいるわっ」

 妙ちゃんとさっちゃんは、私の長い長い、年季の入った片想いを心配してくれて。いつも、一歩踏み出すことを提案してくれる。現状を抜け出せないのは、私に勇気がないことだけではないけど、それを分かった上でのアドバイスでもあるのだ。

「総悟のこと、気にしてるアルか?」
「そーちゃん? あの子は、口では十四郎さんのこと色々言ってるけど、昔から何だかんだいって信頼してるのよ。だから、そーちゃんは関係ないわ」
「……そう、アルか」
「私はこんな身体だし、またいつ倒れるかも分からないじゃない? 前にもね、気持ちを打ち明けて玉砕してしまおうとしたことはあるの。でも、今までにない喘息発作が起きてしまって。その時、ああやっぱり私の想いは胸の中に取っておきなさいってことなのかしら、って思えたの」
「それは、間の悪い偶然っス。告白しない理由にはならないんじゃ……」

 また子ちゃんの言うことは尤も。でも、それまでは十四郎さんもひょっとしたら私のことを……なんて、都合のいい勘違いをよくしていたのだ。私が長い入院生活に入ってからはそんな勘違いをするまでもなく、十四郎さんは素っ気なくなってしまったから。
 十四郎さんの中では、きっと私は手の掛かる幼なじみ程度で。大事な親友の姉だ、ってぐらいの存在。

「ミツバちゃんは、もっと自分に自信持つべきネ。自分のこと過小評価しすぎだと思うのヨ」
「まあ、神楽ちゃんったら。過小評価、なんて難しい日本語も使えるようになったのね。凄いわ!」

 そんな私の言葉に、神楽ちゃんは何故だか苦笑いをするだけ。ミツバちゃんはちょっとズレてる時があるよね、ってよく言われるけど──もしかして、またやっちゃったのかしら?




「そうなの。最近は、女の子同士で集まってお勉強してるのよ」

 ニコニコと楽しそうな姉の言葉に、弟がよかったですね、と相槌を返している。向けられている笑顔は、ただでさえ無駄に女共に騒がれているのに、その数が倍増しそうな甘さだと思った。

「総悟は本当にミツバさんが大好きだよなぁ」
「……近藤さん」

 俺の横で同じようなことを考えていたであろう、幼なじみ同士でもある近藤さん。お互い顔を見合わせると、軽い溜め息をついた。

「なあ、トシ。やっぱりミツバさんに気持ちを打ち明ける気はねぇのか?」
「……またそれかよ。今のバランス、崩す気はねぇって、言っただろうが」
「総悟のためにも、バランス崩す方がいいことなんじゃないかって、俺は思うんだけどなぁ〜」

 近藤さんは、俺たちにとって大事な幼なじみで、間に立って中和剤のような役目を担ってくれる存在だ。俺たちのことをよく見てくれていて、誰が誰を想ってるかなんてことも、真っ先に気づいていた。

「あの2人が、本当の姉弟じゃなくて従姉弟だったからって、ミツバさんの気持ちが総悟に揺らぐ訳はないだろう? 総悟にゃ酷だが、ミツバさんにとっての総悟は"弟"以外にはありえねぇんだ」
「それは──」

 数年前に、元々母親を早くに亡くしていた姉弟の父親までもが病気でこの世を去り。相続問題で戸籍謄本を見てしまった総悟が、ミツバの方が実際は母親の姉の娘だったことを知ってしまった。ミツバがその事実を知っているかは定かではないが、総悟がそれ以来、ただのシスコン以上の愛情を持ってミツバに接しているのは誰の目にも確かな事実で。

「そういや、トシ。今日総悟に、チャイナさんのことで絡んでたよな?」
「あ〜あれは何つーか、前から思ってたことがポロッと出たっつーか」
「だよなぁ。やっぱりトシも気づいてたよな!」
「まあ……あいつがミツバ以外でまともにコミュニケーション取る女なんて、チャイナ娘だけだから」

 総悟には本気で嫌がられはしたが。自らちょっかいを出すこと自体珍しいのだから、からかいたくもなるというものだ。あれは、完全に無自覚の成せる行動なんだろう。

「チャイナさんが銀八を慕ってるのは確かだけど、何ていうか微笑ましいんだよな。飼い主に懐く犬みたいな感じでさぁ」
「……あれは恋愛感情とはちげーだろ」
「んなことチャイナさんに言ったらぶっ飛ばされるだろうけど。でも銀八もその辺分かってて適当にあしらってるのかな? にしても、何であんなちゃらんぽらん教師がモテんのか、俺には納得いかん!」

 銀八のことを抜きにすれば、チャイナ娘は、総悟にとってのいい理解者になるんじゃないかと、俺はどこかで期待しているのかもしれない。他人にあまり心を開かないあいつが、気を許す相手──それが、肉親以外の異性なんだからなおのこと。

「そういえばチャイナさんぐらいだよなー、総悟のこと名前で呼ぶの。つーか、普通なら総悟が嫌がるのにチャイナさんなら大丈夫なんだ?」

 近藤さんは今頃気づいたようだが、俺は名前を呼ぶに至った経緯を見ていたからな。

「最初は名字呼びだったんだよ。ミツバがあいつの姉ちゃんだって聞いて、速攻名前呼び捨ててたっけな」
「同じ沖田だから? チャイナさんらしいけど、それを総悟が許したのか……」
「あー、許したってか。名前がダメなら、サドかドSにするってチャイナ娘が言い切ったんだよなぁ」
「うわー、総悟キレただろう。その後」

 当然、そこから掃除用具を使用しての乱闘が始まったのだ。引き分けで決着がつかなかったらしいが、いつの間に和解したのか、既に総悟呼びを定着させ──普通にそれに応えている総悟に気づいた。

「俺はさ、お前とミツバさんが上手くいって欲しいのと同じくらい……総悟に、幸せになってもらいたいんだよなぁ」
「近藤さん……俺のことは」
「総悟も、分かってんだよ本当は。ミツバさんが想い続けてる相手と幸せになるのが、総悟にとっても幸せなことなんだって」
「それは──、」

 不意に視線を感じて、前を歩く2人に目をやる。

「総悟……?」

 物言いたげなその口は、何も語らず。すぐに隣りの姉へと優しい眼差しを向けるだけだった。

「俺にどうしろってんだ……」

 立ち止まり、総悟と同じ亜麻色の、ポニーテール頭を凝視する。細い肩に、折れそうな脚──その華奢な体躯は、今にも崩れそうで支えてやりたくなる。その身だけでなく、人生そのものを護ってやりたいと思うのは俺のエゴかもしれない。それでも、こいつが──ミツバが本当に望むのなら、或いは。



土ミツのターン!
……と見せかけて、さりげなく沖神も入ってます(笑)
片恋の土ミツは、ウジウジしてイラつくかもしれません(^-^;
勝手に沖田姉弟を従姉弟にしちゃってすんません!でも、この設定が必要なのっ★
さてさて!次は誰と誰のターンかな?(笑)

'12/04/30 written * '12/05/01 up!

      


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