*day_5_lamento*


疑ったり、怪しんだり──



 今日は、土曜日。

 学院は講義が休みとあって、人影もまばら。自主的にレッスンに訪れている学生を除いては、あまり登校する人もいないはずだ。

「──んで。日頃サボりまくりなクソ兄貴が何で休みに大学来てるネ?」

 私の冷めたツッコミに、神威はいつもと同じ嘘臭い笑顔のまま振り返った。

「一応さ、沖田と待ち合わせなんだけど」
「はぁっ!?」
「……何さ、その反応」

 いつの間に仲良しこよし、な関係を築いてたんだ? 少なくとも、総悟の方は神威と馴れ合うなんて絶対嫌がりそうだけど。

「まあ、その沖田が来る前に銀八センセーとも待ち合わせなんだけどさ」
「何で銀ちゃん? 益々訳分かんねーアル!」
「そこはホラ、聞けば分かるって。あ、でも。神楽はセンセーには見えないんだから、黙って聞いてなよ? オレはツッコミとか一切やらないんだからさー」

 聞けば分かる、って何ソレ。──銀ちゃんのいる国語科準備室に入ると、さっちゃんまでが待機していて。更に、訳が分からなくなってしまった。

「遅かったなー。寝坊か?」
「センセーは随分早いんじゃない? それとも朝帰りだったのかな? 昨日は金曜だったしネ」

 大人ってフケツ! などと言いながら神威はソファにドッカリ座り込む。

「何ですって!? 銀さんったら私というものがありながら、他の女に跨ってきたというの!?」
「あー、もう突っ込む気も失せるくらいメンドクセー。俺、今日は割とどうでもいいっていうか、多分関係ないと思うんだよね。だからさー、このアホ置いてくから帰っていい?」

 銀ちゃんの力の抜けた言葉と同時に。素早い拳が、銀ちゃんの顔面スレスレに炸裂──怪しいまでに笑顔の神威の繰り出したモノだが。

「センセー、一応神楽の保護者名乗ってんだからさぁ。関係ない、はオカシイよね? あんまり変なコト言ってると殴っちゃうゾ」
「いや、もう殴られそうだったよね、今。……イヤイヤ、帰りません。ちゃんと聴いてるから、改めて拳構えるの止めてくれませんか!?」



 ようやく落ち着いて。ダルそうな様子で鼻をほじっている銀ちゃんにさっちゃんが抱きつく(最早誰も突っ込まない)という変な構図のまま、話はいきなり本題に入った。

「んで? 沖田くんちのお家事情、がどうしたって?」
「沖田家というか、問題は試衛館全体だから、近藤家も込みのお家事情と言った方がいいと思うの。私の家は、近藤家と親戚関係に当たるから、ある程度のゴシップネタ程度なら知ってるわ。家業が裏で探偵紛いのことをやってて、今回、総悟くんから依頼が来たのよ」

 沖田家と近藤家のゴシップネタ……? さっちゃんが理事長の親戚というのも意外だったが。そのゴシップネタ、やらが、どうも今回神威がみんなを集めた理由のようで。チラッと私に意味ありげな視線を寄越した神威を見て、これからさっちゃんが何を話すのか想像がつかずに困惑してしまった。

「何だよ、ゴシップって。まさか、沖田くんの両親と理事長の旦那が交通事故で亡くなった時のアレか? 根も葉もないワイドショーみてーな噂なら、俺も聴いたことあるぞ」
「あー。実際、マスコミが押し掛けてきたらしいネ。事故じゃなくて、ソレと見せかけた殺人じゃないかとか。週刊誌なんか好き勝手に騒ぎ放題だったんじゃない?」

 ──総悟の両親と伯父さまの事故が起きた頃、私はまだ小さな子供だった。総悟に出会う前だったし、試衛館のことだって神威に教えてもらうまで知らなかったし。
 いくら総悟がドSで図太い方だからって(偏見)傷つかなかった訳はないと思う。

「沖田と近藤の両夫妻は、ちょっと複雑な友人同士だったみたいだから。マスコミがそれを調べ上げて放っとくハズはないのよねぇ」
「何だよ、複雑って?」
「総悟くんの父親と理事長は実の姉弟でしょ? 問題は残りの2人。どうやら、総悟くんの母親と前理事長は元々恋人同士だったらしくて。……しかも、理事長が略奪したって噂があって」
「げっ。何、その昼ドラみてーな話! それでいけば、実は2人の仲は続いてたとか、沖田くんが本当は前理事長の息子だとか……」

 本当に、そんなゴシップが流されていたらしい。一時は、試衛館も評判が落ちるのではと言われたようだが、逆にそれで知名度が上がり学院のレベルまで上がったというのだから驚きだ。

「総悟くんも、この位の情報なら知ってそうだけど。敢えて私に調査を依頼するってことは、何か問題があったのかしら?」
「訊きたいのは、その噂の信憑性みたいだけどネ。……で、何処までがホントの話だった訳?」

 噂がホントだったとしたら。理事長が、恨みを持ってたとしたら。──でも、交通事故には結局何も不審な点はなかったらしい。少なくとも、事故が飛び出した子供を避けてのものだったことから、理事長が3人を殺しただなんて有り得ないことだったのだ。

「事故のことはさておき、それ以来情緒不安定になってたのは総悟くんも気にはしてたみたいね。そうして、最近やっと精神科通いに気づいたんですって。だから、裏から手を回して理事長の精神科通院記録は調べてみたの」
「精神科!?」
「ゴリラ……あ、違った。院長が隠したがってるようだって言うだけあって、かなりガードは堅かったんだけど、さっちゃん頑張っちゃったわ! さすがに病状のこととかは、プライバシーもあるから詳しくは訊き出せなかったけれど」

 総悟にも隠して、精神科に通わせて。ゴリのヤツも、一体どこまで過去のことやら……私の事故のことを知っているというのか。問題はそこに行き着くのではないだろうか?

「オレには関係ないってか、ハッキリ言っちゃうとどうでもいーんだけどさ、沖田のことなんか。まあ、でも。精神に異常を来たして、訳も分からず自分の甥を危険に晒してる──理事長本人はそれに気づいてないみたいだしね。そうなると、さすがに沖田のヤツも気の毒かもしんない」

 かもしんない、じゃねーよ! クソ兄貴!! ありったけの殺意を込めた視線で睨みつけてやるが、上手に目線を外してくれやがる。マジムカつく。

「大体の事情は分かったけど。結局、沖田くんが来る前にこうやって話してるのは何か意味があんの?」

 銀ちゃんのダルそうな声で、神威もさっちゃんも、そして私も。ジト目で銀ちゃんの方を向いてやった。

「センセー、鈍いんじゃない? そもそも、俺たちに共通してる人物って沖田じゃなくて、神楽でしょ?」
「んぁ? 何でここで神楽が出て来んの? ……げっ。まさか、沖田くんと間違えて、神楽を!?」
「あ〜ぁあ。やっぱ、分かってなかったんだ。先に"神楽の保護者なんだから"って言ったのにさぁ」

 うん、確かにさっき言ってたと思う。
 結局のところ、神威が銀ちゃんを呼び出したのは。ことの顛末を知ってもらう(叩き込む?)ため、という意味合いが大きかったのだろう。

「そういや、土方のヤローがわざわざ海外から電話してまで沖田くんの心配してたんだよな〜。こういう事情があったって知ってたら、俺も別の答え方も出来たかも」
「……土方って?」
「あー、神威は知らないか? 沖田くんのお姉さんのダンナ。ウィーン在住のヴァイオリニストで、俺からすればただの学生時代の腐れ縁。普段電話なんざ寄越したことねぇのに、やっぱ義弟が可愛いのかねー」
「へぇ〜土方十四郎が義兄? つくづく音楽一家なんだ、沖田家って」

 クソ兄貴でも、トッシーのことは知っているらしい。ってか、銀ちゃんとトッシーが学生時代の腐れ縁!? 一体どんな繋がりなんだ。

「──ま。こんなとこでいいかな? センセーもようやく理解したみたいだし」

 扉の向こうで、総悟の到着した気配がする。みんなの目線は一斉に、そちらへと向けられたのだった。





書く度に、書き方を忘れます(笑)一応、いつ逢いの神楽は歳より大人びてるように書くつもりでいるんですが……。
何か違うな、オイΣ( ̄□ ̄)
次章は敢えて端折って、シーンが飛ぶ予定です(えっ!?)
前世話も絡みますんで、気合い入れてきます♪

次は……間を空けずに更新したいなぁ(遠目)

'12/02/23 written * '12/02/25 up



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