*day_6_belcanto*


あなたのために、唄う歌──


『神楽がこのまま意識を取り戻さなかったら──一生恨むかもしれません』

 泣きそうな表情でゴリに向かって発した、総悟の悲痛な声。
 私はまた、こんなに自分のことを想ってくれるヒトを残して……逝かなくちゃならないの?


 夕方になり。ゴリの運転で沖田邸に戻った私たち(私は乗車した訳じゃないけど)だったが、ゴリは意識の戻らない理事長を抱えて去り。総悟の方は無言で自室に戻ったまま、さっきから一言も発していない。

「そーご?」
「……チャイナ」
「ッ!!」

 無意識だったのだろう。総悟は、懐かしいその呼び名を口にした。折しも、あの最期(とき)のように、あなたを置いて逝く、この瞬間に。

「……悪ィ。ずっとほったらかしちまって。まだ、心の整理がつかねェんだ」
「気にしなくていい、アル。私は……ちゃんと思い出したから。もう、大丈夫だから」
「──近藤さんの話聞いて、思い出したのか?」

 コクリ。小さく頷く私を、総悟は傷ついた表情で見つめる。傷つかなくて、いいのに……ね。だって、結果的に、私が窓から落下したのは、私自身のせいなんだから。

「総悟。理事長のこと、責めちゃダメだからナ。もちろん、ゴリのことも」
「責めたりなんか……」
「恨むのも、ダメ」
「〜っ!」

 だって、誰も悪くないんだもん。理事長を責めちゃったら、あの場所に私を呼び出した総悟だって悪いことになっちゃうじゃない?

「このまま、日本にいたら──俺は2人のこと責め続けてしまう気がする」
「だから、責めちゃダメだって言ってんダロ!!」
「分かってる。頭では納得してるんでィ。でも……このままじゃ、お前だけが救われねェ」

 私に向かって伸びる腕は、いつにも増して透けている身体をすり抜けていく。

「……なぁ、神楽。俺と、海外ツアー、回らねェ?」
「はぁっ!? 海外って……」
「準備だけはしてたんだ、いつでも日本を出られるように。今なら、無料で海外旅行しまくりだぜ? 悪ィ話じゃねーだろ?」

 理事長と距離を置くためにも……総悟が海外ツアーに出るのは、正直賛成したい。元々、トッシーにも促されてたみたいだし、それこそ世界中にいる"沖田総悟"のファンが大歓迎するだろう。

「神楽のことだから、どうせ海外行くんなら美味しいモノたくさん食べたい、とか言いそうだけどなァ?」
「むぅ。確かに食べれないのは何か悔しいアル!!」

 思わず応えてしまった、けど。そもそも、私には海外に行くこと自体、もう──。
 突然。視界が、狭まるようにチラチラと点滅する。手を翳して見れば、今までにないくらい透けているのが分かる。誰に言われるまでもなく、このまま消えてしまう予感がした。

「……神楽。お前、その身体っ!?」
「ウン。総悟もさすがに気づいたアルナ? 落ちた時の記憶が戻ったら、こうなるんじゃないかなーとは思ってたネ。予想通りで何か笑っちゃうけど」
「笑い事じゃねェだろ!!」

 真剣な表情の総悟を見る目も、まるで涙が浮かんでいるかのように霞んできた。

「ごめん、アル。でも、生まれ変わってもまた逢えたこと……嬉しかった。どうせなら、前世のこと、もっと早く思い出したかったけど。運命の神様ってヤツは、残酷アルナ。それとも、こうなる運命だったから、ご褒美に記憶戻してくれたんだったりして?」
「馬鹿言ってんじゃねーや。また、お前を先に逝かせるなんて──そんなの、俺が許さねェ!!」

 透き通る私の身体を囲うように、総悟が腕を拡げて閉じ込めた。触れられないはずの、霊体であるはずの身体に、確かに総悟の熱を感じ取る。

「神楽……チャイナ」
「何ヨ、サド」
「てめー、そこでソレかよ。よっぽどそっちのがSじゃん」

 だって、その方がよっぽど私たちらしくない? 湿っぽいのなんて、似合わないもん。

「海外ツアー、もう決めたって言ったろ」
「うん。私は行けないけどナ」
「あっさり振ってくれやがる。……それで、さ。日本を発つ前に、緊急だけど記念リサイタルすることになったんでさァ」

 記念リサイタル……そっか。暫く日本には戻らないだろうし、日本にいるファンには見納めになるだろう。チケット倍率高いだろうな、なんてぼんやり考える。

「最前列の、ど真ん中」
「へっ?」
「お前の席、取っといてやるから。そこで、ちゃんと聴きやがれ」
「そー……ご。だって、私、」
「だっても待っても聞かねェ。聴きに来い! 俺のありったけの"愛"を込めてやるからなァ」

 いつもの私ならそれこそ、オマエが愛なんてちゃんちゃらオカシイ、とか笑い飛ばしてやっていただろうけど──。

「あ、れ?」
「チャイナ……お前、涙!?」

 何で、だろう? 涙が、次から次と、溢れてくる。

「……しょっぺェ。」
「バカ、アルナ。涙が甘い訳ないダロ」
「いや、突っ込むのソコかよ」

 身体には触れられないのに変わりはないけど、総悟の指が私の止まらない涙を救いとっていく。

「生半可な愛は、認めないアル」
「そんな心配はいらねーよ。むしろデカすぎてゲップ出るくらい詰めてやらァ」
「さすがに最前列でゲロ吐くのは嫌アル」
「てめーの吐くもんなら、ゲロでも何でも受け止めてやる」
「……ほんっと。総悟はアホ、アルナ。昔から知ってたけど。そんなとこも、愛してるけど」

 肉眼でやっと確認出来るくらい透き通ってしまった両手を、総悟の顔の辺りに持っていく。私の涙ですっかりビショビショになってしまった総悟の手が、それに重なるように合わせられる。

「きっと、また逢えるネ。だから、サヨナラなんて言わないアル……」

 かつて、私が最期の時に言ったセリフを──私は再び繰り返す。

「ああ……。どれだけ運命に引き裂かれたとしても、また、逢いに行ってやらァ」

 そして、私たちはまた必ず惹かれ合う。恋に墜ちる。

 きっと、初めは反発し合って。気に食わなくて、ケンカばかり。憎まれ口で、素直になるのに時間はかかるかもしれない。それでも、どんな障害にも負けないような"愛"で結ばれるのだ。


♪Je n'ai pas de regrets
 Et je n'ai qu'une envie:
 Près de toi, là tout près,
 Vivre toute ma vie,

 Que mon c・ur soit le tien,
 Et ta lèvre la mienne,
 Que ton corps soit le mien,
 Et que toute ma chair soit tienne!

♪いいの それで
 のぞみはひとつ
 あなたによりそい
 生きてゆくのよ

 この心は
 あなたのものよ
 あなたのものよ
 あなたのからだ すべて



 ──薄れゆく意識の中で唱ったのは、心を込めた愛の歌。最後まで、ちゃんと届いていただろうか。それだけが、気がかりだけれども。





これにて、本編は終了、となります。あ、あくまでエピローグで本当の完結ですので終わった訳ではないですよ?(そりゃそうだ)
一度、day:another(番外編)を挟んでエピローグに入ります。番外編は、想像通りと言いますか。
前世のラストです。
別れ、二連発です。どんなドSプレイやねん!(何故か関西弁)
エピローグは3ヶ月後…そうです。最前列のど真ん中の席を開けて待ってますよ!

'13/09/23 written * '13/09/25 up



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