伝わるものならば僕に後悔はない





※デリックに静雄の身代わりをさせ、抱いてもらう臨也
※デリ視点





帰ってくるなり膨れっ面のまま寝室へと直行した臨也さんを追いかけ、ゆっくりと階段を上る。
「臨也さん」
「………」
ベットの上に座り込み、コートも脱がずおまけにフードまで被ったままの臨也さんをしばし見つめた。
フードに邪魔をされて顔は半分見えない。
おかえり、の代わりにそっと名前を呼ぶと臨也さんはキュッと唇を噛んで。軽く肩を竦めながらもベッドへと近くと、とうとう顔を伏せてしまった。
「どうしたの?」
極力揺らさないように注意してベッドへと乗り上げれば、頼りなさげな両肩がピクリと揺れる。だから、ふわりと薫る甘い匂いの中に僅かに煙草の匂いがすることには気付かない振りをした。
理由なんて聞かなくてもだいたい予想はつく。それでもつい聞いてしまう俺は意地悪なのだろうか。
傍に腰掛けていつものように臨也さんのサラサラの黒髪を梳きながら、彼の気が済むまで付き合うことにした。待つことなど苦ではない。臨也さんが待てというならば十年でも待つ。些か大袈裟かもしれないが、俺にとって臨也さんの言葉は絶対だからだ。ちなみに寝食の必要性がないこの身体では精神的にも肉体的にもそれは可能だ。俺はマスターである臨也さんの所有物であり、人間とは似て異なる存在であるアンドロイドなのだから。
臨也さんは相変わらず黙り込んだままなのだけれど、素直に髪を梳かせてくれるから俺も手を止めずにおく。トリートメントの効果がでてきた髪が指先を滑り落ちるのが心地よい。
落ち着いたら、宥めすかして風呂に入れなければと思い至り、今日の入浴剤は何にしようとストックを思い浮かべていたそのときだった。
「ねぇ、デリック…」
「うん?」
ようやく口を開いてくれた臨也さんだったけれど、いつまでたっても続きを紡ぐことはない。言葉にするのを躊躇っているのか、それともまだ混沌とする感情の整理がついていないのか。
どちらかといえば後者に近いのだろう。俺には人間と同じように感情を持ったり解析処理する機能が搭載されているが、そんなものに頼らなくても表情だけでも臨也さんの心情なんて手に取るようにわかってしまう。答えは簡単だ、一番傍で臨也さんを見ているのは俺なのだから。
ようやく意を決したのか、臨也さんがゆるゆると顔を上げたので髪を梳く手を止めて小首を傾げる。そして、納得していないせいか思考を振り切るように大袈裟にため息をつくのだけれど、俺の肩へと大人しく頭を預けてきた。
俺はそんな臨也さんを優しく優しく抱きしめてあげることにする。だって、俺をじっと見上げる瞳の奥には明白な情欲が見てとれたから。


そんなに辛いならば俺に抱かれなければいいのに。
想い人と同じ顔の俺を身代わりにしたところで生み出されるものは虚無と、絶望でしかない。
そして、同時にそれは俺自身にも言えることだ。
誘われたから、臨也さんが望むから抱いているだなんて所詮建前だと気付いたのはいつのことだっただろうか。
唯一渇望して止まないものが永遠に手に入らない絶望感は筆舌に尽くし難い。腕の中に堕ちてきた痩身を抱き寄せその甘い肌を何度貪っても、それは臨也さんの全てではないのだから。同じ顔なんだから俺を選びなよと言えたらどんなにかいいだろうか。
そもそも、人間に、それもマスターに劣情を抱くだなんてアンドロイドのくせに分不相応だと言われてしまえば俺には返す言葉もないのだけれど、今となってはそんなこと瑣末なことだろう。
ああ、心配されなくても、この想いが叶うことが無いことだって嫌というほどわかっている。
臨也さんが俺と同じ顔の男の名前を嗚咽しながら紡ぐたびに。叶うわけもない奇跡を願うしかない矮小な存在でしかないことや、齎される泡沫の夢のような甘い熱に胸を締めつけられ続けるしかないことを思い知らされているのだから。

それでも、俺のこの想いが届くことがなくても、臨也さんの傍にいたいのだ。臨也さんは俺にとって何にも替え難い絶対的な存在だ。俺の全身全霊をかけて少しでも心の闇を埋めてあげたいと思っているのだ。
只、臨也さんが俺の名前を呼んでくれるから。
それだけでも、必要とされていることが伝わってくるから。
だから、今日もまた、臨也さんの望みを叶えるべく抱きしめる腕に力を込め直す。


腕の中の臨也さんが、スン、と可愛らしく鼻を鳴らした。そっと伺い見れば、泣いてはいないようだけど相当参っているみたいだった。今日は一体どんな虚栄心を張ってきたのだろうか。
「大丈夫?」
「……」
とりあえず無難な言葉を選び端的に問い掛ける。返答がないことくらい予測済みだ。
無言を貫く臨也さんは、それでも俺のシャツを掴んだまま離してはくれないことがこんなにも嬉しいなんて不謹慎だと殴られるだろうか。
「……うるさいな。黙って抱きしめてよ」
「うん」
ほら来たよ、いつもの台詞が。憎まれ口も可愛いけれど、今日はまた一段と拗ねているようだった。これはきっと派手に喧嘩したんだなと思った。だけれど言葉に甘えて、抱きしめる力を込めていきながらもこっそりあちこち触診する。どこも痛がったりしないし、一見したところ無傷なようで安堵した。
抱きしめた背中は頼りないくらいに小さく、そして小刻みに震えていた。臨也さんの頭を撫でながら、まるで涙を堪えるように小さな瞬きを繰り返す長い睫毛を見つめる。顔も無事なようだ。この綺麗な顔に傷をつけるだなんて許しがたい。だけれど、手酷く殴られて
帰ってくるたびに、頬を腫らし血が滲む唇を憎々しげに歪ませ涙ぐむのは、傷の痛みではなく心の痛みからだってことも知っている。
肩先にあたる臨也さんの吐息は温かい。伝わる鼓動は幾分早い。
ぽんぽんとあやすように背を叩いてやれば、臨也さんは深く深く吐息を吐き出した。
あんなに上手に他人の心を操るくせに、本当は不器用で臆病な臨也さん。唯一自分の思い通りにいかないのは特別な感情を抱いているせいなのだと本当は認めたくはないのだろう。
――本当は気付きたくなんてなかったのだろう。


「…シズちゃんなんて大嫌い」
呪詛のような密やかな囁きは、臨也さんの想いの丈が詰まっている。まるで自分自身を戒めているかのようだ。秘められた想いは届くことはないと知ってはいても簡単に消失するはずもなく。今日もまた、本心を偽り、失意の下俺に抱かれようとする。
「そっか」
囁きは行為を進めてほしい合図だとわかるくらいには臨也さんを抱いている。だから、それ以上余計な詮索をすることはせずに慣れた手つきで臨也さんのコートを脱がしていく。無抵抗の身体が少しずつ外気に曝されていき、すらりと長い両腕が俺の肩に触れた。
「ん…」
俺はゆっくりと顔を寄せ、インナーから覗く鎖骨や首元にありったけの愛しさを込めて優しいキスを落とす。白い肌が徐々に桜色に色付き、すぐに赤い花びらが咲く瞬間が好きだ。
「ん…っ、デリ、早くっ」
「はいはい」
もう少し滑らかな肌を堪能したいけれどもどかしげに急かされては仕方がない。
臨也さんが望むように、背に手を添えてベットへと横たえる。従順に微笑みかけながら臨也さんのズボンのベルトに手をかけ緩めると、そのままズボンと下着を性急に引き下ろしてあげた。
「……っ」
大胆に誘っておいてどこか恥ずかしげに視線を彷徨わせる臨也さんに思わず苦笑を浮かべる。すると、臨也さんにジロリと睨まれてしまって、立てられた膝を割り開きながらも伸び上がって赤く熟れる唇に謝罪代わりのキスを落とした。
そういえば今日はおかえりのキスを失念していたことを思い出して一瞬後悔したが、その分たくさん口づければ問題ないかと思い直す。
「んん…っ」
先程は触れただけに留めた唇に、今度は深いキスを仕掛けていく。息をしようと口を開いた隙を逃さずに舌先をねじ込んだ。
「ふ…、はあ…っ」
口づけを深めながら、皺くちゃになってしまうことを厭わずに両腕のシャツを捲りあげる。そして、太腿に隠され慎ましやかに眠る臨也さんの性器へと向かって掌を滑らせた。
「まだ柔らかいね」
「……!」
反応の兆しを見せ始めたばかりの性器を壊れ物を扱うように包めば、それはピクリと小さく揺れた。親指の腹で先端を撫でれば、臨也さんが途端に艶めかしく腰を浮かせるから。
「もっと…?」
「……ん」
性器を掴んだまま上半身を倒し耳元で伺いをたてれば、頬を染めた臨也さんは小さく小さく頷いた。
「了解」
すぐさま上下に扱き上げてやれば、堪らないとばかりに臨也さんはキュッと瞳を閉じてシーツを握り締めた。
「あ…っ、あんっ、う…んっん」
グチグチと奏でられる卑猥な水音に負けないくらいの甘い嬌声が零れだす。頬にキスを落とし、掌の中で存在を誇張し出した性器を掴んだまま、器用に下半身へと向かってシーツの上を移動して。立てられた膝の間に屈むと、先端から先走りの液を垂らすそれにも恭しいキスを落とした。
「臨也さん、口でされるの大好きだもんね」
「あ…!デリ…っ、…っ、はう…っ」
臨也さんは実はフェラされるのが大好きだ。俺は弱いところだって全部知っている。
パクリとそのまま亀頭を口内へと含めば、臨也さんが鋭い悲鳴を上げる。広げさせた両足の付け根がヒクリと痙攣する様を視界の端で楽しみながら咽奥へと導いていく。
「やぁ、あ、ん、んううっ」
亀頭をチロチロと舌先で嬲り、歯を立てて甘噛みしてやれば、絶えず先走りの液が溢れてくる。ジワジワと膨張し出す性器は掌にすっぽりと収まり、裏筋に沿って舌先を這わせれば余すことなく快楽を享受しているのだと知らせてくれる。
「ひ…ん、やぁ、や…!」
両足で踏ん張って必死に跳ね上がりそうになる身体を押さえようとして失敗する臨也さんは悔しそうに眉を寄せている。反して、更なる快楽を催促するかのように、戦慄く唇からは絶え間無く嬌声を紡ぎ出す。
「う…んん、はあ、あっ、あ…ぁっ」
「ひもちいひ…?」
「く…わえたまま…っ、はっ、しゃべらなひ…、んんっ、でぇ…!」
「ふふ」
最奥まで使って全体を包みながら、上下に頭を振って大量の唾液を絡みつかせる。時折唇を窄めて全てを搾取するかのように先端を吸い上げれば臨也さんがもどかしげにフルフルと頭を振った。
「あ、…ん、も、だ…めぇっ!」
限界まで張り詰めた自身を計らずとも俺の口内に突き入れるようにして臨也さんが感極まった声を上げる。快楽に歪む表情を想像しながら、最後の仕上げとばかりに先端に歯をたててやれば、臨也さんは呆気なく絶頂へと達した。
「あ、や、やぁあ、あああああっ!」
「んん…っ」
ゴクリゴクリと音を立てて全てを呑み込む。一滴も残したりしない、勿体ないから。
「んは…っ、はぁ…、ん…っ」
「臨也さん、まだ始めたばかりだよ?次、ここね?」
精液に塗れた舌先でペロリと後孔周辺を嘗めてやれば、想った通りに期待に満ちたそこは収縮した。達したことですでに解れ始めているらしい。
「ん…ぅ」
「もう少し我慢ね?」
それでも十分な準備をしなければ、本来異物を受け入れるべき器官ではないそこは、簡単に怪我を負ってしまうから。
「ちょっと冷たいよ」
「う…んっ」
ベッド傍に常備されている小さなボトルを手にすると、中身をたっぷりと後孔へと垂らせる。すると、臨也さんはその冷たさにひとつ声を上げた。そんな仕草ひとつとっても、可愛くて可愛くて。
「ほら、もっと足を開いて…?」
「……やっ」
つい、意地悪を言ってしまうのは全部全部臨也さんのせいだとこじつけて。閉じがちになる両膝に手をかけ、ほんの刹那だけ主導権を握らせてもらっている俺がとびきりの笑顔で促してやれば、臨也さんが少しだけ悔しそうな顔をするから。
やっぱりもっと苛めてあげたいだなんて思ってしまった。



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2011.6.17 up
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