伝わるものならば僕に後悔はない




※デリックに静雄の身代わりをさせ、抱いてもらう臨也
※デリ視点
※後編




どうしても上がってしまう嬌声を押し殺すように指先を唇に宛がい、ふーふーと絶え間なく吐息を零す様が可愛い。
片手はシーツを握りしめ、悪戯に奥を突けばシーツの皺が一層増えた。
目元を赤く染めているのは、完全に羞恥を隠し切れていない証拠だ。
そんなに可愛い顔をされては、本当に苛めてしまいそうになる。
「ふぅっ、ん…っ」
両膝がシーツに擦れるくらいに開かせ固定しながら、ローションに濡れる後孔に慎重に三本揃えて指を差し入れる。
すっかり蕩けた後孔は、余裕で三本目をも呑み込んで離さない。
絡みついてくる内壁を押し広げるようにして揃えた指を左右に開いていけば、内壁がヒクリヒクリと痙攣するのが伝わってきた。
「ん、んぅ…うっ」
些か激しく出し入れすれば、体液とローションが絡みあいシーツへと零れ落ちてきた。すっかり回復した臨也さんの性器も、負けじと先端から濁った液を垂らしてくる。


想い人ではない俺に全てを曝し、刹那の充足を求める臨也さんは消え入りそうに儚くも綺麗だ。
臨也さんは綺麗な人だけれど、どこか危うい儚さを纏っていると感じたのは初めて抱いたときだったか。
それは、静雄にロシア人の可愛い後輩ができたときのことだ。
『シズちゃんは人をどんなふうに抱くんだと思う?…君に抱かれたらわかるのかな』
そう言って悲しそうに笑った臨也さんの表情は今でも脳裏に焼き付いている。
それ以来、好きでもない俺に己の身体を差し出すようになった。快楽と夢想に浸り、そして現実に引き戻され絶望する。その繰り返し。だけれど、臨也さんはどんなに辛くても諦めきれないのだ。そもそも静雄と同じ顔の俺を傍に置くのだって、そういうことだ。それほどまでに強い想いを抱えて、臨也さんは今日もまた終わりのない闇の中でもがく。
そんな臨也さんに俺ができることといえば、偽りの熱情を分かち合うことだけ。
(……っ)
ちょうど心臓辺りが疼きを発する。こんなところは本当に余計な機能だと自嘲する。やめてほしい。
「ね…ぇ」
「ん?」
思考を巡らせていたことがバレたのだろうかと内心慌てつつも、平静を装い臨也さんに笑いかける。
根元まで挿入した指がうっかり止まってしまっていたので、再び蠢かせれば臨也さんは艶めかしい吐息を零し。そして、ゆるゆると俺の頬へと掌を伸ばしてくる。
「どうしたの?」
頬を紅潮させたままじっと見つめられれば、先を促すようにその手をとる。
暖かい。うっとりと瞳を閉じて捕まえた掌の体温を味わう。器用にナイフを扱うとは思えないほどに、薄い掌と繊細な指先。
そして、指先に力が込められたことで臨也さんを見つめ返したのだけれど。
「…もっと…乱暴にして?滅茶苦茶にしてほしい…」
「臨也さ…ん?」
珍しいその言葉に思わず聞き返してしまった。いつもだったら、抱けと言い渡した後は俺に身体を預けてくるだけなのに。当然のことながら、乱暴に抱いたことなんて一度だってない。臨也さんに最高の快楽を与えられるように、優しく優しく抱いていたんだから。それではダメだというのだろうか。
戸惑いを隠せないでいれば、臨也さんがみるみるうちに険しい顔つきを浮かべて。
「なんで、…なこと…」
途端に震えた唇では肝心な部分は言葉にはならずに、むしろその先は無理やり呑み込んだようだった。
眦には薄らと涙すら浮かんでいる。乱暴に抱けだなんて言うけれど、ただ単に憂さ晴らしをしたいわけではなさそうだった。
いつもとはまるで違う。なぜもっと早く気付かなかったのだろうか。
静雄との間に何があったというのだろうか。とはいえ、想像の範疇を越えることはなく、事実を知る術は俺にはない。
「ねぇ、ほんとどうしたの…?」
「―…」
何があったかなんて、無理に話す必要はないと思うし、話したくないならそれでいい。ただ、臨也さんは酷く息苦しそうに見えて心配になる。
俺にはそっと握りしめた指先を包み込むことくらいしかできないことがもどかしい。
すると、やっぱり応えてくれることはなくとうとう臨也さんは顔を背けてしまった。おまけに、俺の頬へと預けてくれていた右手すら勢いよく跳ねのけられてしまい。その衝撃で後孔から指が抜けてしまうと臨也さんは横目で俺を睨みつけてくる。
「もう入れていいから、早く…っ」
「ちょ…っ」
痺れを切らしたのか、臨也さんが突如として自由になった身体を起こして強引に口づけてきた。
「…ん!」
勢い余って唇同士がぶつかる。子供じみたキスは羞恥を誤魔化すためなのか、はたまた不服の現れなのだろうか。それにしても、さっきまであんなにしおらしかったくせに、この変貌ぶりはなんなのか。
だけれど、俺には考える暇も与えられなかった。
「あっ」
「ほらっ」
臨也さんが、自ら俺の膝の上に乗りそして腕を首に回して抱きついてきたからだ。これには一層驚愕させられた。つべこべ言わずに早く抱け、とそういうことなのだろう。
「もう、大丈夫だからっ。中、ちゃんと解れてるから…っ」
ギュッと俺にしがみ付いたまま、耳元で切なげに懇願される。声が震えているのは、今にも零れそうな涙を堪えているからだろう。
そんなことをされては、拒めるはずもない。最初から、拒むなんて選択肢はもちろんあり得ないわけだけれど。
「……わかったから、ね?臨也さん」
帰ってきたときと同じように、あやすように黒髪を梳くのだけれど効果はなかった。嗚咽する臨也さんを慰める方法なんて、情けないことにひとつしか思いつかなかったからだ。
「力、抜いてね?」
十分に解れているとはいえ、挿入されるときには緊張感と異物感が否めないに決まっている。案の定、屹立した自身を臨也さんの後孔へと押し当てれば、臨也さんは身体を強張らせた。
もう少し楽な体位に変えてあげようと腰を抱いたのだけれど、臨也さんは膝立ちのまま動こうとはしない。むしろ、俺の意図を察してか、それを拒むようにフルフルと首を振るものだから。
「このままでいいから」
「…わかった」
仕方なく細腰を支えてやれば、臨也さんが自重をかけてくる。ヒクリとひとつ痙攣した後孔は、俺の先端をヌプリと呑み込んで。
「ん…ぅっ」
亀頭を含んだところで、耳元で苦しげな吐息が零れる。だけれど、受け入れることに慣れているそこは、臨也さんが自重を落とせばゆっくりと全てを咥え込んでいく。
「は、はぁ…っ、あぅっ」
宥めるように頬にキスを落としてあげる。それすらも刺激になるのか、臨也さんが肩にしがみ付いてくる。もっと、思いっきり掴んだっていいんだ。爪をたてたって構わないんだから。
「う…、はぁ…っ」
ようやく全てを埋めたところで、俺もまた吐息を吐きだす。相変わらず、臨也さんの中は暖かくて狭くて心地よい。ずっとこのまま包み込んでいて欲しいと思うくらいに。
「動いていい…?」
「ん、んっ」
きっと臨也さんも望んでいるのだろうと思って両手で腰を掴めば、臨也さんは荒々しく呼気音を紡ぎながらも頷く。了承の証に、臨也さんが弱い耳朶を甘噛みしてあげたら、またひとつ可愛らしく声を上げてくれた。
「あ…、ああ、んあ…っ、ひ…っ」
下からゆっくりと突き上げ始める。ベッドがギシリギシリと悲鳴を上げ、臨也さんの黒髪が眼前で飛び跳ねる。
「は…う、あ、あひ…っ」
臨也さんもまた積極的に腰をゆるゆると揺すりながらせがんでくる。ローションと体液が混ざりあう水音と、臨也の頼りなさげな嬌声が俺を後押しする。
「ああん、はぁ、は…ぁ、い…ああぁっ」
快楽の波に攫われ、甘い声が奔放に紡がれる。後孔も突き入れるたびにキュウッと締まり、俺に絡みついて離れようとはしない。
膨れ上がって苦しげな臨也さんの性器が俺のお腹に擦りつけられる。
「気持ちい…?」
「ひ…ぁ…!」
抱きしめながらも、ギリギリまで引き抜いて浮いた腰を一気に沈ませる。途端に背を逸らして鋭い悲鳴を上げる臨也さんは顔を涙でグチャグチャにしている。
どんな表情も愛おしいけれどこれは重症だ。
「あ、やぁああっ、ふか…ぃっ、はぁっ」
最奥を何度も突いて、それでも足りなくて。もっと深くまで俺を埋めて、俺だけを感じてほしい。臨也さんを抱けば抱くほど欲深くなる俺は、泣きたくなるくらいに切なくなる。だって。
「臨也さん…」
「ん、ん…っ」
名前を呼べば、俺に抱きついてきてくれる。そして、きっと今日もあの瞬間がやってくるのだ。
それでも望まれるがままに激しく腰を打ちつければ臨也さんの痩身が俺の上で跳ねて。終焉が近づくにつれて、意識の全てが臨也さんへの想いで塗りつぶされていく。
「やぁああ、あんっ、も…っ、だ…めぇ…っ!」
後孔が痛いくらいに締めつけられる。振り切るように最奥を抉れば、臨也さんは喉を震わせて。
「あ、ん…っ、…シ、シズちゃ…!」
掠れた声が断続的に唇から零れ、最後に想い人の名前を切なげに紡いで。臨也さんは全てを吐きだすと、弛緩させた身体を俺に預けてくる。
そうだね。あなたが好きなのは、平和島静雄。俺じゃない。
わかっている、臨也さんに罪はない。わかっているんだけれど、この瞬間だけは俺も酷く辛い。
俺もまた、遣る瀬無くも臨也さんの中へと欲望を撒き散らし。臨也さんの身体を抱きしめながら、そっと宙を仰いだ。


お風呂の準備を終わらせ、部屋へと戻ると。臨也さんは俺が部屋を出て行ったときのまま、ベッドの上で背を向けて痩身を丸めていた。
「…臨也さん、お風呂はどうする?準備できたけど…」
「もう少ししてからでいい…」
ベッドへと腰かけると、臨也さんがフルリと首を振った。
少しだけ身動きした途端、後孔からトロリと白濁液が伝う。後始末をしていないのだから当然だ。せめてドロドロのインナーを脱がしてあげなければ、と腰を浮かそうとしたときだった。
「ごめん」
「え…」
ポツリと聞こえてきた声音に思わず瞳を見開いてしまった。
「…八つ当たりしちゃったね」
「……そんなの構わないけど?」
八つ当たりだって大歓迎だ。大体、俺はそのために存在しているんだから、そんな配慮なんてしなくたって構わないのに。臨也さんは俺ごときに心を砕く必要なんてないんだ。
すると、臨也さんがモゾモゾと身体を動かして、そしてこちら側を向いた。
「そうなの?」
「うん」
再びベッドへと腰を落とし、臨也さんの頬を撫でてあげる。臨也さんは瞳を細め、そして口元に笑みを敷いた。
いや、正確には笑ってはいない。どちらかといえば、それは自嘲的な笑み。
「……何があったか聞きたい?」
「…臨也さん?」
どこか挑発的に嗤った臨也さんは、俺の手を取って。そして、思いがけないほどの力で俺を引っ張った。
「わわっ」
バランスを崩した俺は、ベッドの上へと倒れ込んでしまう。かろうじて臨也さんにぶつかってしまうことは避けたのだけれど。臨也さんは悪戯が成功したとばかりにクスリと笑うのだから性質が悪かった。
「もう、突然…っ」
どうしたのだ、と臨也さんに問いかけようとすれば、臨也さんが至近距離まで身体を寄せてきて。俺が反射的に腕を伸ばしてしまうのはもう習慣になっているからなのだろう。
そして、明かされた真実に瞳を見開くことになってしまう。
「今日ね、シズちゃんにキスされたんだ」
「……っ」
どういう意味なのだろうか。ただ、臨也にとってはけして好ましい事態ではなかったようだった。だって、全く嬉しそうにしていないし、道理でセックスのときも荒れていたというわけだ。
「キス…って」
「ロシア人のあの子の話になってね…。キスくらい済ませたのってからかったんだよ。そしたら突然俺に…キスしてきて。手前の唇はかてぇなって笑われたんだよ」
これって完全に嫌がらせだよね、シズちゃんのくせに生意気だよね。人の気もしらないで、ムカつくけど完敗だよと、そう言って、臨也さんは悲しげに顔を伏せた。
確かに、静雄のことが好きな臨也さんにしてみれば、手酷い仕打ちだろう。
「それに、さ」
臨也さんは徐にインナーの袖を捲り上げた。
「ほら、あ、やっぱり…痣になってる…」
晒された右肘近くは、臨也さんが言うように赤黒い痣が残っていた。静雄によほど強く掴まれたのだろう。
「一度逃げ損ねたんだよ。捕まえておいて何も言わないから、ナイフで顔面狙ってようやく逃げられたんだけど」
忌々しげに静雄を詰る臨也さんに、俺は思わず言いかけてしまった。
「でもそれって…」
「何?」
だけれど、すんでのところで賢明にも口を噤み、代わりに臨也さんを抱きしめてあげることにした。
「ううん」
俺が首を振れば、臨也さんはそれ以上言及してくることはなく、大人しく俺の腕の中に収まってくれた。思い出したことで沸々と込みあげるものがあったのだろう、臨也さんが啜り泣き始めてしまったから、好きなだけ泣けばいい、とそう思って。


果たして、本当に嫌がらせなのだろうか。
…もしかして静雄は臨也さんを引き止めようとしたのではないだろうか。
本当に嫌がらせならば、キスをした後に早々に興味を失うのが普通ではないだろうか。
そもそもからかわれたからと言って本当に嫌いな相手にキスができるものだろうか。
それに、逃げ出そうとしている臨也さんに痣が残るほどの強い力を行使する意味がわからない。
もし、静雄が臨也さんのことを少しでも好ましく思っているとしたら、これらの行動にも納得がいくのだ。
とはいえ、そう思うだけの明確な理由があるわけではなく、俺ならばそうするという仮説の下の単なる憶測に過ぎない。
もちろん、臨也さんに教えてあげるつもりは毛頭なかった。


泣き疲れて眠る臨也さんを浴室へと運んでやるために抱き上げる。
本当に男なのだろうか、と思うほどに軽い。
身を削るほどの想いを抱えて生きているのだから、それも当然か。


身代わりだっていいから。
この世で唯一の存在であるこの人を奪わないで。
人間でもない自分には祈る神なんていないのだけれど、俺は腕の中で眠る臨也さんを見つめながら、そう願わずにはいられなかった。


そう遠くない未来の行く末には気付かない振りをして。



END






デリックは本当に臨也のことが好きで好きで。
想いが叶わなくても臨也のために尽くす、そんな関係が好きです。

2011.6.20 up

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