Because


【2】


いつもながらの臨也の訳のわからない行動に振り回されている自覚はあるが、問い詰めるのは後回しだ。
ベッドが二人分の体重を受けてギシリと音を立てる。

「ほら、足開けよ」
「…シズちゃんってば横暴。ていうか、そんなに溜まってたの?」
臨也に覆いかぶさった静雄の手が、ゆっくりと臨也のインナーの裾から侵入する。
そして、もう片方の手が臨也の膝をまだ足りないとばかりに左右に割り開こうとした。
その間、臨也は大人しく静雄に身を任せながらも減らず口を叩くことは忘れなかった。
「うるせぇよ。誘ったのは手前だろうが。黙って足開け」
「ひどい、ダーリン…」
「誰がダーリンだ」
開かせた臨也の片足を抱えた静雄が、苛立たしげにズボンを下着ごと取り去る。
下半身を曝された臨也は、ふざけたように瞳を潤ませ、一見悲しそうな顔をして見せる。
もちろん、静雄が本気で取り合うはずはなかった。
「ヤッてほしいって面見せながら俺のせいにすんな。淫乱」
すると、先ほどまで浮かべていた涙を器用にも引っ込めた臨也は、ベッド上からむしろ挑戦的な眼差しを浮かべてきた。
「心外だな。俺をこんな身体にしたのはシズちゃんだろう?」
「……」
臨也の言葉の応酬に、静雄は小さく舌打ちした。
顔を合わせれば殺し合いをしている癖に、確かに今ではこうして肉体関係があることにも抵抗がなくなってしまった。
会えば必ずといっていいほど抱き合っている。…まるで恋人同士のように。
だけれど、世間一般の恋人同士が持ち合わせている恋情とは少し違う気がする。
この情欲は名称未確定であると同時にこれからも不確定のままなのだろう。
「シズちゃん、早く抱いてよ」
思考に捕らわれ愛撫の手が中断していたことに抗議するかのように、静雄の頬へとそっと臨也の手が伸ばされる。
触れる体温と絡みつく言葉。
見下ろした先、臨也が真っ直ぐに静雄を射抜いていて。
その視線は非難するものではなく、誘惑そのもの。
「…クソっ」
静雄は、小さく吐き捨てると、促されるがまま未だ項垂れたままの臨也自身へと手をかけた。
誘われたからと言い訳してみても、やはり臨也を抱きたいと思ってしまうだなんて本当に癪だ。
「あ…」
自ら望んだこととはいえ、その刺激に臨也はピクリと肩を揺らす。
静雄はそんな臨也を一瞥すると、臨也自身をゆっくりと上下に扱き始めた。
「んぅ、シズちゃ…」
途端に甘い声を上げ出した臨也に、静雄は愛撫に邪魔なエプロンをたくしあげようとする。
しかし、臨也が身体を捩ればすぐにまた滑り落ちてきて臨也のものを隠してしまうのだ。
「おい、臨也。その邪魔なエプロン脱げ」
一旦顔を上げた静雄は苛立ちを隠そうともせず臨也に命令した。
「え、やだっ」
だが、臨也は慌ててエプロンを庇おうと手を伸ばす。
無事手にすると、静雄に取られないようにと胸元へと抱え込むような仕草を見せる。
「新婚さんの必須アイテムだよ?」
「俺らは新婚じゃねぇだろうが」
「もう、やだなあ、雰囲気だよ、雰囲気」
どうしてそこまで新婚仕様に固執するのか甚だ理解に苦しむが、こういう時の臨也には何を言っても無駄だということも分かっている。
この際、強引にエプロンを脱がしてしまうもしくは破ってしまおうかとも考えたのだが。
しかし、妙案を思いついた静雄は意地悪く口角を上げてみせた。
「…じゃあ、手前で責任とれよ?」
そして、フリルたっぷりのエプロンを奪うようにして掴み、臨也の首元の方まで再びたくしあげたのだ。
「あ、ちょっとっ」
「ほら、どうした」
「…はあ、わかったよ」
静雄の意図に気付いた臨也は小さく嘆息すると、破られないうちにと静雄からエプロンを奪い取り、胸元から落ちないようにと両手で掴んで固定する。
つまり、その状態のままエプロンをキープしておけということなのだ。
「これでいい?」
「ああ」
これでインナーも同様の位置までめくってしまえば、臨也自身を隠すものはなくなり。
静雄はようやく愛撫を再開することができた。
「ん、んっ」
緩やかに屹立してきたそれに機嫌を良くした静雄は、先端を指先で押しつぶして更に快楽を引きだそうとした。
「あ…、あっ」
刺激を受けた先端がヌラヌラと濡れ始め、後から後から汁が滲み出てくる。
「気持ちいいのかよ…?」
「ん…」
エプロンをきゅっと握りしめた臨也は、頬を紅潮させながらもコクリと頷いて。
視覚的にも自分を楽しませてくれる臨也の仕草に、エプロンプレイいいじゃねぇかとか、そんなことが一瞬脳内に浮かび慌てて首を振った。
「シズちゃ…?」
「…もっと喘がしてやるよ」
臨也の呼び声に、我に返った静雄は己のあり得ない思考を振り払うかのように閉じがちになっていた臨也の膝を開かせ固定し。
そして、眼前に早くも小さく痙攣する蕾を曝させた。
「……っ」
女のように濡れないそこに、臨也が零したもので濡れた指先を這わす。
第一関節がゆっくりと埋め込まれれば、臨也は眉を寄せて。
やはり、異物感は拭えないらしい。
「―…んっ」
一旦根元まで指を咥え込ませると、再び入口まで戻す。
その途中、臨也の弱いところをわざと引っかいてやれば、臨也は甘い声を上げた。
「あ、あ、そこっ」
「ああ、手前、ココ好きだよな」
何度かそこを引っかいたり、出し入れを繰り返してやれば、すぐに内部が綻んできて。
静雄は遠慮なく挿入する指の本数を増やしてやる。
「んあ…っ」
同時に臨也自身を掴み直し、速度を上げて扱いてやれば、臨也はフルフルと頭を振って。
まるで悶えるようにして全身を捩って快楽から逃げようとする。
「こら、逃げんな」
「あ、だって」
「もっと、じゃないのか?」
「う、シズちゃん、意地悪…っ」
必死に嬌声を抑えようときゅっと唇を噛みしめて。
それでも、攻めてやればすぐに口元が緩み、隙間から心地よい声が洩れて静雄の耳を擽る。
そして、臨也の内部もまた、静雄に応えるように収縮を繰り返してきた。
「そろそろ入れてやるよ」
「あ…!」
言うや否や静雄は揃えた指を引き抜き。
代わりに、臨也の腰を掴んで自分のほうへと引き寄せる。
そして、前を寛げると、すでにいきり立っている自身を臨也に見せつけるかのように数度扱いて見せる。
「焦らして悪かったなあ…?」
息を呑む臨也に、いやらしく微笑んでやると、臨也の膝裏を掴み限界まで開かせてベッドへと縫い付ける。
すると、喪失感に喘ぐ蕾が震えて。
「いくぞ」
「…!!」
震える臨也の蕾に自身の先端を擦りつけ、そして一気に挿入を開始する。
途端に臨也はその衝撃に大きく顎を仰け反らせる。
何度抱き合ってもこの瞬間には快楽の中に苦悶が伴うのだと、臨也が以前零していたことを思い出した。
「力入れんな」
臨也は必死に息を吐き出して、衝撃に耐えようとしている。
それでも、やめてやる気などさらさらなく。
静雄は上半身を倒して最奥を目指す。
「あああっ」
最奥まで到達した静雄自身に、臨也は一際大きな声を上げた。
そして、臨也は思わずエプロンを握りしめる両手を離してしまい。
それを見咎めた静雄は、ふわりと臨也の腹部に広がってきたエプロンを掴む。
「しっかり持て。無理なら銜えるか?」
「や…ぁ、ん、んむ…!」
臨也の返答など必要ないとばかりに、静雄は手にしたエプロンを臨也の口元へと強引に押しこんでしまう。
突然エプロンを銜えさせられた臨也は、慌ててそれを口から取り出そうとするのだけれど、その手を静雄は捕まえてしまい。
両手を拘束されてしまえば、唾液が絡んだエプロンを口から吐き出したくても思うようにいかなくて。
臨也は抗議するように静雄を睨みつけたのだけれど。
「ああ、そのほうが手前のウザイ声が聞こえなくていい」
拘束した臨也の手に力を込め、抗議の視線など無視した静雄が律動を開始するから。
「…!!ん…っ、ん…!!」
臨也は、エプロンのことなどはすっかり忘却の彼方となり、代わりに襲い来る快楽の波へと飲み込まれるしかなかったのだった。


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