Because



【3】


次の朝。
静雄の部屋で、天敵同士が仲良く鍋をつついているという奇妙な光景が広がっていた。

結局。昨晩手をつけられることのなかった鍋は、いい具合にダシを滲みこませており。
すったもんだの末、情交に至った2人は空腹を抱えていたわけで。
そんな男2人が黙々と箸を進めれば、順調にその量を減らしつつあった。
「残りで雑炊でも作る?」
臨也は、中身の残り具合を確認しつつ、湯気を立てる鍋越しに静雄を見るとにこりと笑う。
ちなみに、今朝はあの趣味の悪いエプロンは身につけていない。
つけていないというか、静雄によってそのエプロンはつけられない状態になったからなのだが。
「…ああ」
臨也の問いかけに曖昧に返事を返すと、静雄はずっと気になっていたことを口にすることにした。
それは、聞けず仕舞いになっている臨也の訪問理由。
何か意図があるに違いないのだ。臨也は、決して『意味のない』ことはしないから。
「手前、昨日ここに来たのって…」
「なぁに、今更」
鍋をおたまでかき混ぜながら、臨也は眉間を寄せた。どうやら触れられたくない部分らしい。
「もしかして」
「…」
臨也と『鍋』を結ぶ不可解な共通点。それは。
「この前、新羅んとこでやった鍋パーティー」
「っ」
ぴくりと臨也の肩が揺れて。
珍しい。あの臨也が動揺している。
「ハブにされたこと気にしてんのか?」
「……」
無言を肯定ととった静雄は、くつくつと煮立った鍋から白菜を取り上げつつ嘲笑う。
「ははっ。いい気味だ」
「…言ったじゃない。俺はシズちゃんと鍋がしたかったの」
そう言いながら臨也は春雨を丁寧に掬いあげていて。しかし、視線はぷいっと逸らしたままだ。
「キモい」
「その言葉、聞き飽きた。ほら、シズちゃんお肉食べなよ。雑炊しちゃうよ?」
そうして、臨也は静雄の暴言をさらっと聞き流そうとした。
この話題をなかったことにしたいのだろうことがバレバレだ。
その上、鍋に残る豚肉を静雄のほうへと押しやってきた。
「手前が食べろ」
「いいよ」
臨也は、ぐいぐいと豚肉を押しつけようとする。
その豚肉と一緒に静雄が苦手なシイタケも押しやるのが精一杯の臨也の抵抗なのだろう。
静雄は口元にニヤリと笑みを敷く。
つまり、臨也は拗ねているのだ。
こんな奴でも、寂しいだとか、嫉妬することがあるのかと思うと、爽快な気分になる。
そして、鍋の相手として自分を選んだ臨也が少しばかり可愛いだとか思ってしまって。
「つうか…」
クスリと笑みを零した静雄はそこで一旦言葉を切って。
厭みたっぷりな一言を投下してやることにした。
「もっと太って貰わなきゃ抱き心地がワリィっての」
「…っ」
絶句する臨也を面白そうに眺めて。
そして、臨也によって再び押しやられた豚肉を箸で摘んだ静雄は、臨也の取り皿へとそれを放り込む。
臨也といえば、なんでもないかのように口にされたその言葉に、箸をとめ呆気に取られて静雄を見つめたままで。
一瞬思考回路が止まったからだ。
「何それ…っ」
同時に、昨晩の情事を思い出すことになり。一言返すのがやっとだった臨也だったのだけれど。
「言葉のまんまだ」
「…シズちゃんのエッチ!」
そうして、ようやくお返しとばかりに言い返すと。
「事実だろうが!誘っておいて人を変態みたいに言うなっ」
臨也は、静雄の応酬を聞かないふりをすることで取り合わず、更に取り皿に放り込まれた豚肉を口元へと運んだ。

だけれど。
臨也のその頬が幾許か染まっていたのは、鍋の湯気のせいではないことは明白だった。


END




拍手お礼にアップしていたシズイザ鍋ネタでした。
纏めるにあたってタイトルつけてエロシーンを追加、アップしていた部分も少しだけ加筆・修正しました。
エプロンプレイがぬるすぎる気がしないでもないですが。
当時、原作で鍋パーティーをハブにされた臨也にひどくそそられて書いたお話。

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