06


「的場さん、今日は仕事無いんですねー」



テレビを前に、私は的場さんが作ってくれたクッキーを頬張りながら的場さんに言う。美味。的場さんは、私の斜め後ろで空を眺めている。「毎日仕事をしていたら、体が壊れかねませんからね」なんて言う的場さんに、まあ確かに、と思う。つか、いつも余裕たっぷりだな的場さんは。


「なんか平和すぎて逆に何かが起こりそうですよね」
「何を言うんですか。平和なのが一番ですよ」



またまた、ごもっともです。でも貴方がそれを言うんですか。そう呆れていた、その時だ。外から眩しい程の光がしたのだ。私も的場さんも、あまりの眩しさに咄嗟に目を固く閉じる。段々と眩しい光が無くなるのを感じ、目を開ける。外に一番近い的場さんが外を見て「これは……」と驚く。私はとりあえず、的場さんの横に立って外を見た。



「――…え……」



思わず声を漏らして固まってしまった。そりゃそうだ。だって……、――OROCHI2に出ているかぐやが倒れているのだから。これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ。汗をダラダラ流す私の表情を見て何かを感じ取ったのか、的場さんが私に声かける。



「皐月、あの娘に何か心当たりがあるのですか?」



えっ。



「えっと、あの娘、無双OROCHI2っていうゲームに出てくるんです」
「ゲーム、に……。ということは、皐月と同じように、この世界に来てしまったようですね」
「はい、そうみたいですね……」



「とりあえず起こしましょうか」と、庭で倒れているかぐやの元へ歩み寄る的場さん。私は「あー!!待ってください的場さん!!」と急いで的場さんの腕を掴んで止める。的場さんは、キョトン、とした表情で「どうしたんです?」と言いながら私を見る。



「的場さんが行くと、あの娘絶対恐がります!!」



的場さんって変な雰囲気出してるし……!! 最初会ったときの微笑みが恐かったし……!! 私の言葉に、的場さんは「失礼ですね……」と呟く。「とにかく、ここは私に任せてください」と言うと、、的場さんは「分かりました」と微笑んだ。私はかぐやの元に歩み寄り、優しく体を揺すった。かぐやは「ん……」と声を漏らし、ゆっくりと目を開けた。「こ、此処は……!!?」と、バッ、と勢いよく起き上がるかぐや。私はそのことに若干吃驚する。でも、すぐに平常心を取り戻し、どう説明しようかと悩みつつもかぐやへと話しかける。



「えっと、此処は、平成時代っていうんだけど……、分かります?」



私と的場さんの存在に気づいたかぐやは、私達を見た後、話しかけた私の言葉に「へいせい……?」と首を傾げて返事をした。ああ、やっぱ分からないか。ってことは、かぐやは多分三國時代か戦国時代くらいの仙界からきたんだな。



「平成っていうのは、貴女が居た地上から約500年後の未来のこと」
「ご、500年後!!? ……あ、あの、貴女様は、私のことを知っているのですか?」
「かぐや、でしょ?」



私の言葉に、かぐやは目を丸くして固まる。「私が貴女のことを知っているのは、ゲームっていう娯楽の登場人物だから」と言えば、「私が、娯楽の登場人物……?」と可愛らしく首を傾げるかぐや。私は、そんなかぐやに笑顔で頷く。多分、まだ理解できてないんだろうな。無理もない。



「大まかに説明しちゃうと、この世界は貴女が居た世界の500年くらい後の世界。今は戦が無くて平和なの」



「平和な、世界……」と呟き、何だか嬉しそうなかぐや。……ああ、そうか。OROCHIの世界は、今破滅へと向かっているのだから当然か。今OROCHI2世界のどの辺かは知らないけれど、皆が戦っているのは事実。なんとか、かぐやを帰すことが出来たら良いけど……。



「残念だけど、私は貴女が元の世界に帰る方法が分からない。でも、できる限りは探してみようと思う」
「はい……」
「あ、でも安心して!! 私も、貴女と同じように別の場所からこの世界に来たの」
「え!!?」



ほほほ、相当驚いてる。私は言葉を続けて「だから、立場は貴女と一緒」と安心させるように笑う。すると、かぐやは初めて私に微笑みかけてくれた。おおお!! やったぞぉおお!! かぐやの信頼度UPかな!!? かぐやの目線が的場さんを捕え、「そちらの方は?」と聞かれる。目線が合った的場さんは、にこりとかぐやに微笑んだ。「私は元々この世界に居た者です」と言う的場さんに、「そうですか……」と残念そうに呟くかぐや。こればっかりは、かける言葉もない。



「あ……、申し遅れました。私、かぐやと申します」



ご丁寧に頭を下げてくれるかぐや。私も思わず頭を軽く下げてしまった。



「私は夏野皐月です。よろしく」
「的場静司です。宜しくお願いしますね」



頭をあげたかぐやは、少し頬を赤く染めて微笑んだ。やべえ超可愛い。



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