48 ただいま、妖術の本とにらめっこ中。なんか、こう……、もっとちゃんと戦えるようにしたいんだけれど、この妖術がなんとも難しいのだ。妖力も欲しいし、術のやり方も覚えなきゃいけないし。 「……えっと……、汝、その目に……や、宿し……ぬあッ!!」 だっはー!! 駄目だ……!! 覚える術が多すぎて頭がパンクしそう。的場さんとか名取さんは、こういう術ちゃんと覚えてるんだろうなあ。……はあ……、羨ましい。項垂れているその時、タイミングよく私の携帯が鳴った。吃驚して携帯を見ると、「的場さん」の文字。私は素早く、その電話に出る。的場さんからの電話、久しぶりだ……!! 私はノリノリで「もしもし!!」と電話に出る。携帯の向こうからは「お久しぶりですね」と穏やかな的場さんの声が聞こえる。 ≪どうやら、田沼君がそちらの世界に行ったことで、少しずつ物語が変わっているようです≫ 「え?」 ≪気を付けてください。これからは、何が起こるか私にも分かりません≫ 的場さんの言葉に、私の思考が止まる。とりあえず、「はい……」と返事をする。「気を付けて」と言われても、一体どう備えたら良いだろうか。何か仕出かす相手は妖か清盛か遠呂智か。あまり私達が不利になるような事態にはなってほしくないけれど、そんな甘い世界じゃないのはよく知っている。 「あの、少しでも強くなれたらと思って、今妖術の本を読んでるんです。……でも、正直覚えきれる自信がありません」 ≪……それで、私に何を求めているのです?≫ 「煽てて、くれませんか?」 私を。少しでもいいから、覚えられるっていう希望が欲しい。そうすれば、頑張れる気がするの。私の言葉に、的場さんは「ふふ」と笑みを零し、「良いですよ」と言ってくれる。 ≪……貴女は、やればできます≫ 「はい……」 ≪今までだって、そうやって生き抜いてきたはず≫ 「はい……」 ≪己を信じて進みなさい。貴女は私が認めた娘です≫ 「はいっ」 自然と笑みが零れていく感じる。なんだか不思議。的場さんとはずっと会っていないのに、こうやって携帯越しで声を聞くだけで寂しさが吹っ飛ぶ。的場さんの声には安心感があって、頼れる感じがして、心地よくて。声だけなのに、すぐ近くにいるような感じがする。 ≪では、仕事が残ってますので、これで≫ 「あ、はい。電話、有難う御座いました」 ≪いえ。……くれぐれも、気をつけて≫ 「勿論です」 「また、いつか」と言って、電話を切る。次、的場さんに会えるのはいつだろう。会える日が、楽しみだなあ。 「――…話、終わった?」 「ああ、ナタか。終わったよ」 ずっと待っていてくれたんだろうか。ナタが声をかけてくれた。ナタは私が持っている本に気付いたのか、「その本なに?」と聞く。私は「妖術の方法が載ってる本なの」と言いつつ、本の表紙をナタに見せる。すると、ナタは「へえ」と興味津々の表情で本をペラペラとめくる。まるでおもちゃを見つけた子供の様で可愛い。 「ねえ、これってできる?」 そう言ってナタが指さしたのは「狐火の出し方」だった。「うーむ……」と狐火の方法を見ていると、ナタが「妖力が高ければ高いほど威力のある狐火が出せる、ってさ」と言う。ということは、妖力が低くても出せるわけだ。……まあ、試しにやってみるか。本に載っているやり方をじっくりと読む。両手の指で狐を作り、顔の目の前で互いの狐の口をくっつける。「火灯し」と言ってフッ、と息を吹きかける。そのまま拳を作り、バッ、と掌を上にして開ける。 ――ボッ 「あ」 「できた!!」 少し小さめの炎が私の掌の上でゆらゆらと揺れる。ナタは「凄い!!」とはしゃいでいるが、私は苦笑しかできなかった。こんなことまで出来てしまうとなると、余計に敵に狙われる可能性が高くなるかもしれない。いや、でも皆の役に立てるのなら、これはこれで良いのかも。 「おーい!! って、うおお!? 何だその炎!!?」 私に用があったのか、夏侯覇さんが来た。だが、私の手の上の炎を見て、青ざめた表情で後ずさる。その驚き方が面白くて、私は手の上でゆらゆら揺れている炎を見つめる。本当に小さな炎だから、引火してもすぐに消すことが出来る。私は「よし」と呟き、ふたつの炎をポイッと夏候覇さんに投げつけた。 「ッギャァアアアア!!」 夏候覇さんなんとか避け、炎は地面に落ちて消えて行った。夏侯覇さんは青ざめた表情で「お、おおおおまっ……!! 何してっ……!!」と涙目で言うが、私は「いやあ、どのくらいの威力があるのかなあ、って」と呑気に言う。 「あ、そういえば何か御用ですか?」 ふと聞けば、夏侯覇さんは「ったく」と呟きながらも、「スサノオが出現したらしい」と言った。それが一体どうかしたのだろうか。首を傾げると、「夏野皐月を出せ、って言ってるみたいで……」と困った表情で言う。 「お前、スサノオと会ったことあるか?」 「いえ、多分一度も……」 参ったなあ、まだ妖術覚えてる途中だっていうのに。戸惑いつつも「話し合いで解決できますかね?」と夏侯覇さんに聞くと「まあ、あっちは皐月が欲しいみたいだからな。お前なら話せるだろ」と言った。それでも表情は不安そうだ。きっと私が攻撃されないか、無理矢理攫われないか心配してくれているんだろう。 「……行くのか……?」 「はい、私が行って説得できる確率が少しでもあるなら」 ちょっと恐いけど、私がやらなきゃ。 [*前] | [次#] [表紙へ戻る] |