22


旅に出て約二週間。
あれからナタと一緒に旅をすることになった。本当に自由人というかなんというか。私は討伐軍に戻っても恥ずかしくないように、毎日ナタに鍛錬をしてもらっている。ナタは強いし、時々加減してくれないし、怪我は絶えないんだけれど、前よりかは強くなってると思う。



――バンバンバンッ!!
キィンッ!! カッ!!
ドッ!!
「ッう……!!」



ナタに向かって球を何発か撃つけれど、全て手で取られてしまう。「ひええ」とナタを怖がっていると、ナタが一気に間合いを詰めてきた。それに反応をして後ろに下がろうとするが、ナタの方が早かったようで、お腹に軽く蹴りを入れられる。それにより、体が投げ飛ばされ、ズザザザァ!!、と音を立てて地面に体がついた。



「ッ……いったあ……」
「ごめん!! 大丈夫だった?」



珍しく慌てた様子で近づいて来るナタ。私は苦笑しながら「大丈夫」と伝える。本当にナタは強い。まだまだ力を出していないのは分かるけれど、軽くなのに私の体が浮くぐらいに蹴り飛ばしてしまった。蹴られたお腹が凄く痛い。これ絶対痣できる。



「やっぱ、ナタは強いね。手加減してくれてるのに歯が立たない」
「なにも僕並みに強くならなくて良いじゃないの? 皐月の強さなら雑魚兵は余裕で倒せるし」
「ううん、それじゃ駄目なの。強くなるからには、皆と対等なくらいに強くなりたい」



そうだ、皆と同じくらいに強くならなきゃ。私が足手まといになってどうする。皆に迷惑をかけるわけにはいかない。そう思っていると、「やっぱり皐月は面白いね」とナタが笑った。訳も分からず首を傾げる。



「人間のくせに強くなろうとする。そんな皐月が僕は好きだよ」



そうニコニコしながら言うナタに、私は顔を赤くする。何故、本人を目の前にしてそんな恥ずかしいことを言えるんですか、ナタさん。好きって、好きって言ったよ。しかも平然と、それが普通であるかのように。



「皐月、少し休憩しよう? このままやってたら、皐月の身体が壊れちゃうかもしれない」



ナタの言葉に「うん、そうする」と頷く。すると、ナタが私を起こそうと手を貸してくれた。そのままナタに支えられ、近くの木に背中を預ける。「あー」と天を仰ぐと、斑が私の膝の上に座った。怪我してるのに容赦なく乗ってきやがって。



「最初は雑魚兵にでも殺されそうな強さだったのに、今では名のある武将を倒せそうなくらいになった。成長したね」



ナタにそういわれ、「そう、なのかな……」と呟く。自分ではなんだか実感がわかない。でも、ナタにそう言ってもらえると本当にそうなのだと思えてしまう。嬉しくて頬が緩めると、斑に「笑うな気持ち悪い」と言われてしまった。こいつマジ殴ってやろうか。



「全部ナタのおかげだよ。いつも鍛錬に付き合ってくれてありがとう」



そう言うと、ナタは笑みを浮かべながら「うん」と返事をした。と、その時、「……む……?」と斑が鼻をピクピクとさせながら立ち上がった。私は「どうした?」と斑に聞く。「妖物の匂いだ。これは近いな」と言う斑に、「はあ、またか」と溜め息をつく。いつもいつも飽きずによく来るなあ。



≪見つけたぞ、夏野皐月!!≫



私の名前を呼ぶ声に、再びため息をつきそうになりながらも立ち上がり、その妖を見る。その妖は、まるで火車。顔も声もいかついおっさん。流石にナタとの鍛錬直後だと、体が悲鳴をあげてキツイ。でも、これは私がやらなければならない。腰にさげているポーチから大きいサイズの札を取り出して一枚取り、妖をにらむ。



「面倒だから、手っ取り早く終わらせるよ!!」



邪魔になる札は口にくわえ、二丁拳銃を構える。



≪貴様を攫って帰れば、我が主は世界征服をすることができる!! さあ、大人しく来てもらうぞ!!≫
「無理ッ!!」
≪ならば、強制連行するのみ!!≫



体を炎で包み、此方へ走ってくる妖。見た瞬間、頭に浮かんだ文字。それは赤朱の文字。そうか、コイツは赤朱(アカシュ)というのか。迫りくる赤朱に銃口を向け、弾を何発か撃つ。



――バンバンバンッ!!
≪ぐああ!!≫



一発の弾が、赤朱の目に撃ち込まれた。血飛沫が舞う。弱すぎる。私はその隙に赤朱の元へ走り、札を張る。紙で作られている札ならば、炎を纏っている赤朱へ張れば燃える。だが、この札は特殊な物。持ち主の意思以外では、破れたり燃えたりはしない優れ物だ。



「赤朱、汝の邪を打ち祓わんッ!!」



勢いよくそう言うと、赤朱が呻き声をあげる。その直後、赤朱の体が眩いほど光り、次第に消えていく。光が消えて赤朱の姿を確認できるようになり、赤朱を見ると唖然とした表情をしていた。



≪……あ……、儂は、一体何を……≫



今までの悪行を後悔しているのか、赤朱は唖然としたまま動かない。「あー体痛い」なんて思いながらも赤朱の元へ歩み寄る。私の近づく足音に気付いた赤朱が、いまだに唖然としたまま私を見た。



「教えてほしいことがあるの。今まで良心になってきた妖達は怯えて何も教えてくれなかったけど、アンタ等の主は誰?」
≪………≫



いきなり無言になってしまった赤朱。……そんなに言えない事なのだろうか。



≪……儂達の主は"平清盛"という者。お前は、その札で妖を操ることができる。だから"平清盛"は、お前を使って妖を利用しようとしているのだ≫



そうか、平清盛が……。悪を祓った妖達が怯えていたのは、その平清盛が関係しているのだろうか。それに、私が持っている札で妖を操ることができると言っても、今まで試したことがないから本当にできるか分からない。そんなことできるなんて的場さんも言っていなかったし。



「ありがとう。赤朱、帰って良いよ」
≪本当に、すまなかった≫



私の言葉を聞き、赤朱は申し訳なさそうに謝り、私達に背を向けて行ってしまった。「厄介なことが起こりそうだな……」と言う斑の言葉に「そうだね」と返事をする。平清盛の名が出てしまった以上、これからは妖だけではなくて平清盛も警戒しなくてはならなくなる。私の何倍も強い相手だ、狙われて戦うにしても勝てる自信なんて全くない。ああ、本当……、なんで私が狙われなければならないんだ。急に、かぐや達が恋しくなった。



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