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貴志とニャンコ先生を紹介し、三篠とヒノエも再会を果たし、近藤さんに”学園長室”と書かれた部屋へと案内された。道中人はどこにも居なくて、貴志が聞けば「今は授業中なんだ」と近藤さんが言っていた。貴志の予想通り。



「そうか、そんな事が……」



私がこの時代に来てからのことを近藤さんに話すと、彼はそう口を開いた。



「ありがとう、貴志君。君のおかげで、伊織君が路頭に迷わずに済んだ」



頭を下げる近藤さんに、貴志は「い、いえ、そんな」と慌てながら首を横に振る。ニャンコ先生は自分がお礼を言われなかったことが不満なのか、「私はー!?」と近藤さんに言った。ニャンコ先生が妖だということは説明した為、近藤さんは苦笑しながら「君もありがとう」とお礼を言う。満足したのか、ニャンコ先生は大人しくなった。



「あの、近藤さんも亡くなってこの時代に?」
「ああ。でも伊織とちょっと違うところがあってな。俺達は死んで、この時代に生まれたんだ」



私の言葉に、そう言う近藤さん。
生まれた、ということは、また赤ちゃんから育ってきたということ? それに、”俺達”ということは、他の人達も此処にいる……。龍もいるのだろうか。早く逢いたい……。



「授業はいつ頃終わるんでしょうか? 俺達も遅くならないうちに帰らないといけないので、時間があまり無くて……」



貴志の言葉に、近藤さんは困ったように笑みを浮かべながら「うーん……」と唸った。



「もうすぐテスト期間になるから忙しくてね、今日会うのは難しいかもしれない」



近藤さんの言葉に、「そうですか……」と言いながら頷く。私を慰めるように、黒猫姿のヒノエが頭をこすりつけてくる。そんなヒノエの頭を撫でると、近藤さんが「せっかく来てくれたのにすまないね」と謝った。慌てて、「いえ、そんな、」と首を横に振る。連絡も無しに来てしまったのだから、仕方がない。
その時、近藤さんが立ち上がった。顔を上げて近藤さんを見ると、紙と筆らしきものを手に取っている。



「また来れるように、俺の携帯電話の番号をこれに書いておく。かけたいと思った時に、かけなさい」



スラスラと何かを紙に書き、その紙を手渡される。
けいたいでんわ、とはなんだろうか。貴志を見ると、私が”けいたいでんわ”を知らないと気付いたのか、「帰ったら教えるよ」と言ってくれた。これを使えば、また此処に来れるらしいけど……。本当にこの文字でまた来れるのか疑問だ。



「それから、できれば俺は、伊織君と一緒に暮らしたいと思っている」



え?
意外な言葉に、驚きながら近藤さんを見る私。近藤さんの目はいたって真剣で、その言葉が嘘ではないことが伝わってきた。困惑して貴志を見ると、彼も困惑している様子だった。視線が交わり、思わず視線を逸らしてしまう。



「近藤殿と共に暮らすとなると、伊織は東京に住む、ということだな?」
「ああ。でも、伊織君にも意思がある」



三篠と近藤さんの会話を聞いていると、近藤さんと視線が合う。



「君が貴志君達と暮らしたいのなら、無理強いはしないさ。だけど、少しだけでも考えてみてほしい」



今住んでいる場所と東京は、片道だけでも何時間もかかる。私一人だけで行き来することはできないだろう。かと行って、来る度に貴志や他の誰かに付き合ってもらうのも申し訳ない。近藤さんと一緒に住めば、近藤さんや、龍や、他の皆とも一緒にいられる。……だけど、貴志達と離れることも心苦しい。
どういう顔をすれば良いのか分からず、俯いてしまう。横から貴志の手が伸びて、私の手に添えられる。



「伊織、自分の気持ちに素直になったほうが良い。もし近藤さんと一緒に暮らすことになったら、俺が会いに行けば良い話だ。気軽に考えよう。な?」



貴志の優しい声が、私の気持ちを落ち着かせてくれる。「うん」と頷いて、顔を上げて近藤さんを見る。近藤さんは私を視線が交わると、「困らせてすまない」と苦笑しながら言った。その言葉に「いえ」と首を横に振る。



「じゃあ、考えてみます」



私の言葉に、近藤さんは「ああ」と嬉しそうに頷いた。
それからしばらく話をして、私達は他の人達と会うことなく、帰路についた。


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