31

もうすぐで九時。
私は、ドキドキする胸元を抑えながらヒノエ達が来るのを待っている。ヒノエと三篠は元気だろうか。病とかにはかかっていないだろうか。悪い道に走っていないだろうか。また、笑い合えるだろうか。私を嫌っていないだろうか。
「伊織、」と貴志に名前を呼ばれ、貴志の顔を見る。貴志の顔は落ち着いた穏やかな顔だった。「大丈夫」と、そう言って微笑む貴志。そんな貴志を見て、私は自然と笑顔になっていくのが分かる。



「うん、ありがとう」



私、なんだかおかしいな。貴志の一言だけで、こんなに安心するなんて。
その時だ。窓がガラッと開いた。反射的にそちらのほうに顔を向ける。――…そこには、こちらを見つめて唖然としているヒノエと人間姿の三篠が居た。やっと、やっと会えた。



「――…ヒノエ、三篠」



名前を呼ぶと、ヒノエの目から涙が流れ始めた。人間姿の三篠も、少し目が潤んでいる。その後ろに居る妖達は何事か分かっていないようで、オロオロしている。信じられない、とでも言うかのような二人の表情に、私は苦笑する。「なんで? どうして?」「百年前に死んだはず……」と言う二人に、私は「うん、死んだよ」と頷く。



「でも、死んだ後いつの間にかこの時代に居たんだ」



ヒノエが私の言葉を聞いて、真っ先に抱きついてきた。私は吃驚しながらも、ヒノエを受け止める。ああ、どうしよう。涙が出てくる。「っ……ごめん! ごめん……!」と何度も何度も、繰り返し謝るヒノエ。私は、ヒノエの背中を優しく撫でた。



「今まで寂しい思いさせて、ごめん。でも、私はここに居るよ、ヒノエ」
「っく……っ、うぅっ、伊織ッ……!」



ヒノエは私の肩に頭を乗せ、泣き続ける。私は、ヒノエの背中をポンポンと軽く叩きつつ三篠を見た。ちっとも変わって無い、人間の姿。百年前の姿と同じ。「三篠も、ごめん。変わってなくて良かった」とそう微笑むと、三篠は私に背を向けた。鼻をすする音が聞こえてくるあたり、三篠は泣いている。でも、その泣き顔を私に見せようとしない。なんだか三篠らしい、と泣きながらも笑みを浮かべる。これだけ取り乱した姿を見るの、私が腹部を刺された時と今で二回しかない。ふと貴志を見ると、此方を見て微笑んでいた。



「良かったな」
「うん。ありがとう、ヒノエと三篠に会わせてくれて」
「私に礼は無いのかー?」



トコトコとこちらに歩いて来ながら文句を言うニャンコ先生。そんなニャンコ先生を見て、私は少し笑ってしまった。「ニャンコ先生も、ありがとう」とお礼を言うと、「フンッ、高貴なのだから当然であろう」と言われてしまう。強気なニャンコ先生に、私は思わず苦笑した。貴志はニャンコ先生の言葉を聞いて「コラッ!」とニャンコ先生の頭を殴る。そんなニャンコ先生と貴志を見ながら、私はヒノエの頭を撫でた。
また会えて、本当に良かった。


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