05

新選組を出て、私はとぼとぼと歩いていた。
もう、夕方だ。これから、どうしようか。行く宛など無い。住む場所が無くなってしまった。近藤さんと会って、まだ一日も経ってないのにこんな事になるなんて……。……はあ、やっぱりついてないなあ……。そうだ、神社に行こう。あそこなら人も来ないだろうし、ゆっくり寝れる。




 ***




「おい!! 伊織が居ないってどういうことだよッ!!?」



沖田総司に掴みかかる井吹龍之介。龍之介の目は瞳孔が開いており、恐い顔をしている。だが、そんな龍之介に対し、沖田は何も言わず無表情で龍之介を見るだけだった。龍之介はそんな沖田を乱暴に放す。



「お前、あの子の事知ってんのか?」
「そんな事どうでも良いだろ!? なんで伊織が居ないんだよ!!?」



原田左之助の言葉に、龍之介は苛立ちを露にしながら言った。
伊織が居ない事に気がついたのは、調度夕方から夜に変わる時だった。真っ先に気付いたのは藤堂平助。伊織が居るであろう伊織の部屋に行ってみたが居なく、周りの人達に聞いてみたが「知らない」とのこと。普通ならこんなに探し回って居場所を知らない人なんて居ない。そこで気付いてしまったのだ。”居なくなった”のだと。



「あの子、本当は僕達を騙してたんじゃないんですかー?」



沖田の言葉に、永倉新八が「騙す……?」と声に出す。「ビクビクしてたの胡散臭かったじゃないですか」と笑いながら言う沖田。その言葉と表情に、龍之介の眉間に皺が寄った。「んだよ、ソレ……」と言う声は、明らかにいつもより低い。完全に怒っていると気づいた、幹部の中でも龍之介と一番仲の良い藤堂が慌てて龍之介に声をかける。



「りゅ、龍之介……? 落ち着けって、なっ?」
「落ち着けるわけないだろッ!!」



龍之介を宥めようとした藤堂の言葉は裏目に出たらしく、龍之介は更に怒りを出す。藤堂でも止められない龍之介を見て、土方歳三は龍之介から沖田へを顔を視線を向ける。「総司」と責めるように言う土方だったが、沖田は相変わらず余裕たっぷりの笑みを浮かべている。



「僕、あの子嫌いなんですよねえ」
「……アンタ、本気で言ってんのか……?」



龍之介が、いつもよりも低い声で、そう呟いた。その声を聞きとった沖田は、龍之介を見下ろして言う。――本気だけど? 沖田の言葉に、龍之介が再び沖田に掴みかかった。皆が慌てて止めに入ろうとするが、龍之介が発した言葉に動きを止めた。



「アンタ、一度でもアイツの笑顔見たことあんのかよッ!!?」



龍之介の言葉に、沖田は「笑顔……?」と呟く。龍之介を除き、この場にいる全員が伊織の笑顔を見たことがなかった。伊織を拾った近藤勇でさえも。それが何を意味しているのかは本人達には分からないが、龍之介には分かる。龍之介が伊織に「友人だ」と言った時、伊織は本当に嬉しそうに笑っていた。あの笑顔は嘘偽りなんかじゃないと、龍之介は思っている。ふつふつと膨らんでいく怒りに、龍之介は「チッ」と舌打ちをしながら乱暴に手を放す。そして、そのまま襖へと手をかけた。



「りゅ、龍之介? どこ行くんだよ?」
「俺は、アイツを探しに行く」



藤堂の言葉にそう答え、龍之介は走って行ってしまった。藤堂、原田、永倉の三人は、その姿を見た後、お互いに顔を見合わせ「俺達も探してくる!!」と龍之介を追うように走って行った。その後、しばらくの間静寂が部屋の中を包む。しかし、斎藤一が土方の前に動いたことにより、部屋に残った人達の視線が斎藤へと向く。



「……副長、俺も探してきても宜しいでしょうか?」
「ああ。それにしても珍しいな。斎藤なら行かねぇと思ってたんだが」
「少し、気になることがあるので」



無表情で言った後、軽く頭を下げて斎藤も出て行った。続々と幹部達が伊織を探しに行っている。そのことに、沖田は顔を歪めた。悲しそうな表情の近藤が、ポン、と沖田の頭に手を置く。「少し頭を冷やしたほうが良い」と言う言葉に、沖田は悔しそうに下唇を噛んだ。なんで……、僕は、新選組の為に……。そう思う沖田の心情が分かったのだろうか、近藤は優しい声で彼に話しかける。



「”ここが家だ”と言ったとき、橘君が泣いただろう? あの泣き顔に、嘘は無いと俺も思う」
「っ、」
「総司、一緒に橘君を探してくれないか? 一刻も早く、見つけたいんだ」



そう優しく微笑みかける近藤。その事に、沖田は悔しそうな顔をしながらも渋々頷いた。そのことにホッとしながらも、土方は近藤へを顔を向ける。



「俺達も行くか」
「ああ、そうだな」



(……近藤さんを取られたっていうのも、嫌いな理由のひとつ)
(でも、本当は……、)


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