01

最初は独りじゃなかった。

約十六年前、祝福されながら私が生まれた。祖父母はご近所さん達に自慢し、両親は涙を流して喜んでくれたのだという。愛に包まれ、蝶よ花よとのびのび育てられた。

おかしくなり始めたのは、祖父母が亡くなった時からだった。
私が生まれて五年後、流行り病で祖父母を相次いで亡くし、葬儀はひっそりと行われた。その日の夜、私は見てはいけないものを見てしまった。……見たこともない形をした、”何か”がそこには立っていた。その”何か”は、黒い人影のような形をしていたが、夜の暗闇でもハッキリと見えた。祖父が私のことを話してくれた、と、黒い影が言った言葉を信じてしまったのは、不思議と恐怖を抱かなかったからだろうか。

翌朝、黒い影のことを両親に話した。信じてはもらえなかった。――あの日以来、普通の人には見えない何かが、私には見えるようになってしまっていた。

普通の人間ではない”何か”が見える度に、私はその者のことを両親に話していた。……徐々に、両親の私に対する態度が変わってきた。幼いながらも”何か”について話してはいけないんだと思ったが、見える私に悪戯してくる”何か”達に、私は一々驚いて反応してしまった。私が十五歳になる頃には、ろくに口も聞いてくれず、私は居ない者として扱われていた。

そんな日常が嫌で、苦しくて、家を飛び出した。
髪を切り、それを売ってお金にし、飢えを凌ぎ、神社を寝床にする日々を送った。自分で招いた種だ、こんなことになっても自業自得だと思った。私が”何か”について話さなければ、私が”何か”の行動に反応しなければ……、

独りになんて、なっていなかったのに。



 ***



普段通りの日を過ごしていたある日、誰かが神社を訪ねてきた。
いつもの来客なら参拝をして終わりだが、彼女は違った。神社の社の中にいる私に、話しかけてきたのだ。

「ねえ、貴女いつもそこに居るわよね?」

ジッとしていても分かるくらい、心臓がうるさくなるのを感じた。何を言われるか分からなくて、恐怖で声が出なかった。キィ、と扉を開ける音が聞こえ、私は後ずさりながらも開いていく扉を凝視するしかなかった。
――不思議そうな表情をした、太い眉が特徴の綺麗な女の人が、そこに居た。
「ごめんなさい」と、思わず謝ろうとしたその時、彼女は笑った。

やっぱり幽霊じゃないじゃない、と。

何のことかさっぱり分からず、謝りかけた言葉は言えずに終わった。ふと手を差し伸べられ、彼女を見ると、彼女は太陽のような眩しい笑顔で言った。



「行くとこないなら、私のとこに来ない?」


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