09

龍、斎藤さん、ヒノエと一緒に新選組の門の前へと立つ。
ヒノエはどうやら私と一緒に居たいようで、私の了承を得ずに着いて来てしまった。門の外から屯所の中を見ると、近藤さんや土方さん達が慌てた様子で何かを話していた。しばらく三人で見ていると、土方さんがふと此方へと顔を向け、驚いた表情をあらわにした。



「橘!! 無事だったか!!」



そして、私達へと駆け寄って来てくれる。土方さんの言葉を聞いて、近藤さんや原田さん達も此方に駆け付けてくれた。まさか心配してくれているとは思わなくて「えっ」と呟きながら驚いてしまう。「心配させやがってッ……!! 何処行ってたんだ!!」と眉間に皺を寄せ、子供を叱る父親のようなことを言う土方さん。私は、恐る恐る口を開き、疑問に思っていることを聞く。



「……心配、してくれたんですか……?」
「何言ってんだよ!! 当たり前だろ!?」



私が聞くと、今度は藤堂さんが怒った表情でそう言った。
本当に、心配してくれたのか。ああ、なんだ。此処は、私が思ってたよりずっと、優しくて温かい場所なんだ。……でも、本当のことを言ったら皆はどうなるのかな……。やっぱり、離れて行ってしまうのだろうか。できることなら、龍と斎藤さんみたいに、妖が見える変な私を受け入れてほしいけれど……。



「……どうかしたか?」
「……あ……」



龍が心配そうに私の顔を覗き込む。無意識に龍と斎藤さんの袖を掴んでいたらしく、私の手は二人の袖へと行っていた。私は慌てて「なんでもない、ごめん」と言いながら手を離す。龍はキョトンとしながら「何かあったら言えよ?」と言ってくれる。その言葉が嬉しくて、私の頬は自然と緩んでいた。



「橘、今日はもう遅えから説教は明日だ」
「は、はい……」
「斎藤か井吹、どっちか橘を部屋に連れて行ってくれないか?」
「「では俺が」」



同時に言う龍と斎藤さんに、「被ってどうする」と溜息混じりに言う土方さん。まさか斎藤さん自ら名乗り出てくれるとは思わなくて、私は内心驚く。



「……井吹、今は引け。俺は副長直々に命令が下ったのだ」
「はあ!? それは俺だって同じだろ!! つか伊織の友人としてここは俺が行くべきだ!!」



そうお互いに言い、睨み合う二人。喧嘩が始まったことにあたふた慌てつつ、「どうすれば……」と解決策を頭の中で探す。……あっ、そうだ。「二人共、一緒に行ってくれますか?」と微妙に引き攣った笑みをしながら、私は二人にそう聞く。二人は吃驚した顔で私を見て、お互い睨むのをやめ、私の顔を見て頷いた。なんだか仕方なさそうだけど、大きな喧嘩にならなくて良かった。歩き始める二人に、黒猫のヒノエと一緒について行った。




 ***




三人が去った後、残った土方達は驚きの表情を隠せずにいた。



「一君が懐いてる……。しかも、まだ一日しか会ってない女の子に……」
「おいおい、どういう風の吹きまわしだ?」
「つーかまず、隣にいた黒猫を気にしたほうが良いだろうよ」



唖然としながら、藤堂、永倉、原田がそう言う。だが、その表情は次第に嬉しそうな笑みへと変わって行く。それは、三人の会話を聞いていた土方達も同じことだった。しかし、ただ一人、沖田だけはその様子を恨めしそうな表情で聞いていた。気に食わない……、一君とまで仲良くするなんて……。




 ***




――チュンチュン。
どこからか雀の鳴き声が聞こえる。もう朝なのか、と思うけれど、なかなか目が開かない。でも、あまり寝ていると土方さん辺りに怒られるだろう、と渋々目を開ける。……と、そこには驚くことに、ニコニコと笑った沖田さんの顔があった。手は沖田さんによって拘束されているようで、動かない。……これは、一体どういう状況……?



「なんだ、起きちゃったんだ」



まるで当たり前のように言う沖田さん。何だコレは。話がついていけない。「退いてもらっても、良いですか?」と聞いても「君が此処から居なくなるのなら良いよ?」と返されてしまった。相変わらずニコニコとしている。……やっぱりこの人は恐い。でも、何かおかしい。この言葉は、この人の本心では無い気がする。まるで、お菊さん達と会う前の私のような……。



「……何に、怯えているんですか?」
「……何を言っているの? 僕は別に、何も怯えてないよ」
「じゃあどうして、私を脅す時に少しでも悲しそうな顔をするんです?」



私の言葉に、今度は明らかに目を丸くして驚いた表情を出す沖田さん。きっと、沖田さんには妖が憑いている。ただ、体にではなく心に。――…話してくれませんか? 私の言葉に、沖田さんは顔を歪めながらも少し震えながら話し始めた。



(夢に出てきた、あの妖)


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