其の十二



「またアイツ等は……」



小さくそう呟く旦那様。
視線の先には、義経と一緒に遊んでいる重と網問と航が居る。
その光景は微笑ましいが、暇さえあれば義経とじゃれている三人に旦那様は呆れているようだ。
だが仕事の時になれば割り切って仕事をしているらしく、誰も文句を言えないらしい。



「重が離れて、旦那様も寂しくなりますね」
「……いや、お前が居るから別に……」
「……えっ」



なんということでしょう、旦那様がデレた。
思わず凝視すると、旦那様は私をチラッと見て「……なんだよ」とそっぽを向きながら言う。
唖然としながら「いえ」と言い、重達に視線を向ける。
……ん? ”お前が居るから別に”……?
ってことは私、いつでも側に居て良いってこと……?



「舳丸、すず、今から使い頼まれてくれないか?」



突然後ろから声をかけられ、旦那様と一緒に振り返る。
そこには鬼蜘蛛丸さんが居て、その手にはたくさんの魚が入った大きな袋が握られている。
旦那様が「なんですか?」と聞くと、鬼蜘蛛丸さんはニカッと笑って袋を持ち上げる。



「二人でコレを忍術学園に届けてほしいんだ」



ん? 忍術学園?
鬼蜘蛛丸さんの言葉に、旦那様が私に「この後用事あるか?」と聞く。
慌てて「ありません」と返事をすると、旦那様は鬼蜘蛛丸さんに顔を向けて「分かりました」と頷いた。
鬼蜘蛛丸さんは「ありがとな!」と言うと、旦那様に袋を手渡す。
忍術学園のことを聞こうとした時、先に鬼蜘蛛丸さんが「じゃあ頼むわ」と言って行ってしまった為、聞くことが出来なくなってしまった。
……忍術学園って私が知ってる忍術学園ですか……?



「さて、行くぞ」
「あ、はい」




 ***




道中、私と旦那様は特に話すこともなく歩いていた。
会話は、山道ということもあって「大丈夫か?」と聞かれ、「大丈夫です」と返事をする会話だけ。
私は手ぶらだけど、旦那様は魚が入った袋を持っている為、どちらかというと旦那様の方が心配だ。
けど旦那様は筋肉もついてるし力もあるし体力もあるし、私の心配なんて無用なんだろうな。
チラッと斜め前を歩く旦那様を見たその時、「すず」と調度名前を呼ばれた。



「悪かったな」



急に謝られた。
何のことか分からず、戸惑って「えっと……?」と口に出す。
どう返事をしようか困っていると、旦那様は足を止めて振り返って私を見る。
旦那様と目が合い、私の頬に手を添えられる。



「……っ! ちょ、ちょちょちょっ!」



突然、旦那様の顔が近づいてきた。
慌てて両手で旦那様の胸元を押すけれど、流石は男性、ビクともしない。
きょどって「あーっうーっあーっ」と言うと、旦那様に「静かにしてろ」と言われてしまう。
し、静かにって、無理無理無理っ……!
あまりの顔の近さに、恥ずかしさで目をギュッと瞑る。



そして、私の唇と旦那様の唇が重なった。



初めての感触に体が強張る。
こ、これが口吸いっ……。
少し経って旦那様の唇が離れ、私は瞼を開けて旦那様を見上げる。
旦那様は顔を真っ赤にしながら「行くぞ」と言って、私に背中を見せて歩き出した。
私も旦那様の後を追うように歩き出しながら、片手で自分の頬に触れる。
普段より熱い頬と、尋常じゃないくらいうるさい心臓と、いまだ唇に残る感触。



あ、あああああ、もう……、…………好き……。

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