おかえりなさい | ナノ
青天の霹靂 - A bolt from the bule -

よく晴れた青く澄み渡る空。
空に視線を向ければ、太陽が眩しくて眉間に皺が寄ってしまう。
私が勤めているのは小さな本屋で、高校生の頃にバイトをしていた本屋だ。
店長が私の働きっぷりを気に入ってくれて、「高校卒業したらうちの社員にならないか?」という誘いを受け、現在に至る。
そんな勤め先に向かう朝は、自然と「働くのだるいな」という後ろ向きな感情が芽生えるものの、職場は好きだし仕事仲間との仲も良好である為、足取りは軽い。



「――Hey」



「よーし、今日も頑張るぞー」と意気込んでいると、肩をトントンと叩かれた。
驚いて後ろを振り向くと、そこには右腕の無い武装した傷だらけの外国人男性が居た。
血が所々に付いているのを見て、私は「えっ」と呟きながら後ずさる。
殺されてしまうのではないか、という恐怖心から、私は声を震わせながらも「なん、ですか……?」と聞く。



「Please don't be afraid」



そう言う外国人男性の言葉は英語で、英語力の無い私には何を言っているのかさっぱり分からない。
「な、なんて……?」と恐る恐る聞けば、外国人男性は「Ah......」と唸って頭をガシガシと掻く。
ああ、ヤバイ。これはヤバイ。どうしよう。
ふと「何あの人……」と言う声が聞こえ、ハッとしてそちらに顔を向ければ、外国人男性を見てひそひそと話をする主婦達の姿があった。
どうしよう、このままじゃ警察沙汰になりかねない。いや、そっちの方が良いのか……?



「来て」



慌てて外国人男性の左腕を掴んで言う。
外国人男性は首を傾げたけれど、気にする余裕もなく、私は早歩きで歩き始める。
後ろから驚きの声が聞こえ、「あ、強引だったかな……」と反省する。
どこか人目のつかない場所……、と辺りを見渡せば、運良く公園が見えた。
更に歩くスピードを上げ、公園のトイレに一直線に向かい、すぐにトイレの裏に隠れた。
トイレの裏には公園の敷地を囲う塀があるのだが、トイレと塀の間には人が入れるくらいのスペースがある。
公園の出入り口はひとつしかなく他は塀で囲まれていて、調度トイレ裏のスペースは人目に付かない。



「……え、」



さて、と外国人男性の顔をちゃんと見れば、それは見たことのある顔。
「どうして気づかなかったんだろう」と思いつつ彼の容姿を見れば、これまた知っている装備の数々。
コスプレとも思えないリアルな状況に、私は心臓がバクバクとうるさくなるのを感じつつ、「どうにかしなければ」とスマホを開く。
急いでスマホのアプリをダウンロードし、アプリを開く。



「どうかしたんですか?」



スマホに向かって言い、私の言った言葉を英語に翻訳してもらう。
私が今ダウンロードしたアプリは、言葉を翻訳してくれる翻訳アプリ。
日本語が英語に翻訳されたのを確認し、スマホの画面を彼に見せる。
彼は少し眉間に皺を寄せながらもスマホの画面を見て、読み終わったのか私に視線を向けて頷いた。
どうやら言葉が伝わったらしい。良かった。



「Where am I? Japan?」



彼は私のスマホ画面をタップし、スマホに向かってそう言った。
話し終えたのを確認して、私はスマホ画面を見ると、そこには「ここはどこですか? 日本?」と日本語に翻訳された言葉が綴られていた。
彼に顔を向け「イエス」と頷くと、彼は顔を歪め「チッ」と舌打ちをする。
そして、少しイライラしながら私から私のスマホを奪う。



「How should it be done to return to the United States?」



ズイッとスマホを返され、画面を見ると「アメリカに帰るにはどうすれば良い?」という文章。
アメリカ……、といっても、きっとアメリカに彼の帰る場所は無いだろう。
かと言って、正直に言ったとしても私が不審がられるし、始めて会ったばかりの私のを簡単に信じるはずがない。
でも、事情が事情だ。今の彼には、私しか頼れる人が居ない。はず。



「とりあえず落ち着いて話せる場所に行きましょう。私の家はどうですか?」



スマホに向かって言い、翻訳されたところでスマホの画面を彼に見せる。
彼はスマホ画面の文章を読み終わると、私に視線を向けて渋々ではあるものの頷いた。
彼が納得してくれたことにホッとし、スマホに向かって、



「その格好じゃ警察に通報されてしまうので、近くのコンビニで服を買ってきます。待っていてください」



そう言い、スマホを彼に持たせる。
彼はスマホを受け取って私が言った文章を読むと、私をジッと見た。
先程のように頷いてはくれない為、理解してくれたかは分からないが、この際仕方ない。
彼にスマホを渡したまま、彼には伝わらないでろう日本語で「行ってきます」と言い、彼に背を向けて小走りで走り出す。
ふと公園の時計を見れば既に出勤時間は越えてしまっていて、「ああ、これはもう休むしかないな」と腹を括った。

にしても、こういう時の対処法ってどうすれば良いんだ……。

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