05

親友が死んだ。
あたしにとって太陽のような存在だった彼女は、もうこの世にはいない。



「雷蔵、」



ガキの名前を呼ぶ。
名前を呼ばれたガキは振り返ると、「なあに?」と首を傾げた。
あたしは、フッと笑って、



「なんでもない」



そう言い、煙草の煙を吹いた。
可愛らしく首を傾げたガキは、あたしの親友の子供。
親友が死んで、身寄りがないところを、あたしが引き取ったのだ。
本当は双子なのだが、片方は親友の従妹に引き取られた。
親友の従妹は関西出身で阿呆ではあるが、とても良い子だ。



「んむー……、おかあさん、たばこくさい」
「ちったァ我慢しろ。雷蔵も大人になれば煙草の良さが分かるぞ」
「やー、けむたいもん」



眉間に皺を寄せる雷蔵。
そんな雷蔵に、ククッ、と笑みが零れる。



「あ、そうだ。雷蔵、この前買いたい本があるって言ってたろ?」
「うん。タバコがいかにからだにどくかわかるほん」
「…………そりゃあ、勉強熱心なことで」



五歳児でそんな難しそうな本を読むって、おい……。
雷蔵、お前あたしと違って頭良いな。
さすが成績優秀な親友の子供だわ。



「おかあさんも、いっしょによもーね?」
「あたしはいいよ。雷蔵だけ読みな」
「……おかあさんもいっしょじゃなきゃ、おかあさんたばこやめないでしょ?」



読んでも煙草はやめる気ないけどな。
煙草ないと落ち着かねぇんだよ。



「あ、そういえばな、雷蔵」
「んむ?」
「今度の日曜日、三郎が遊びに来るってさ」



あたしの言葉に、雷蔵が「ほんとーっ!?」と笑顔になる。
「おう」と返事をすると、「やったーっ!」とあたしの腰に抱きついてきた。
頭を撫でてやると、嬉しそうに「えへへ」と言う。



「お菓子いっぱい持って来てくれるって。良かったな」
「うんっ」



元気良く頷くと、「さぶろーがきたらねー、」と双子の兄である三郎の話をする雷蔵。
三郎は雷蔵のこと嫌でも分かるほど大好きだが、雷蔵も三郎のことが大好きだ。
ただ、三郎のほうが愛が重い。非常に重い。



「三郎来るからジュース買っておこうと思うんだけどさ、アップルとオレンジどっちが良い?」



あたしがそう聞くと、「えっ」と驚いた顔をあらわにする雷蔵。
そして、首を傾げ「うーん」とどっちにするか悩みだした。



「ぼくはアップルのほうがすきだけど、このまえさぶろうがきたときアップルだったし……うーん……」



おーおー、始まった、雷蔵の悩み癖。
アップルかオレンジか、の簡単な選択だから、パッと答えが出るもんだと思ってたけど……。
ちょっとでも疑問が浮かぶと、悩んでしまうらしい。
悩みだした雷蔵は、答えが出るまで放っておくのが吉だ。



「さぶろーはどっちが、いい……かな……、ぐー……」



……どうやら、寝てしまったらしい。
今回は寝るの早かったな。
腰に抱きついたまま寝ている雷蔵を見下ろす。
だらしのない顔で寝ている雷蔵は、あたしから見ても可愛い。
自然と笑みが零れ、雷蔵の頭を撫でる。



「その悩み癖、将来困るぞ」



なんて、寝ている雷蔵に言ったって無駄だけど。



(それにしてもこの寝顔、天使か。 by.母)
(…ぐー……。 by.雷蔵)

  
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