▼18

「っな、何者だお前!」
「動くな。質問に答えろ、良いな?」



西園寺薬屋を休業すること、早一ヵ月。
早くも、遅くも感じる日々を送っている。
以前のような平穏な日常は無く、再び武器を手に取って戦う日々。
しかし”殺し”を任されないのは、そこまで認められていないからなのだろうか。

――俺は、徳川幕府の忍として仕えている。

若松さんが知ったら、どう反応をするのだろうか。
きっと「そんな仕事やめろ」と言われるのだろうと、容易に想像が出来る。



「あ、あいつは、そう言って、だから、俺も、」
「……そうか」



元の生活に戻るようなものだ。
後悔はしないさ、俺はプロの忍者を目指してきたんだから。
たとえ、この世界に全蔵兄やあやめ姉達が居なくたって、俺はやりたいようにやる。

首に添えていたクナイを放し、男を解放する。
男は、みっともない悲鳴を上げながら、足早に逃げて行った。



「……疲れたな」



小さく呟く。
誰も居なくなったこの場だから、思わず本音が漏れてしまった。

さっさと城に報告して、さっさと帰って寝よう。



 ***



家の屋根の上を走りながら城に向かっていると、視界の隅に光る何かがチラついた。
足を止め、息をひそめ、屋根の下の光を見る。
光は線を描くように、行ったり来たりしている。

……刀?

頭の中で光を繋げていくと、刀の形をしていることに気づく。
目をこらし、光の周りを見ると、人の顔があった。
あれは、刀を持つ男性だ。
こんな夜中に、一体何をしているのだろうか……。



「ひ、ひはははは、」



不気味に笑う男。
その目は赤く、髪の毛は白い。
脳裏に銀さんの姿を浮かべてしまったのは、彼も赤い目に白い髪の毛だからだろう。

明らかに様子のおかしい男は、辻斬りの可能性がある。
……いや待て、あいつ、浅葱色の羽織を着ている。
つまり、新選組の一人……?



「――此処に居たのか」



もう1人、別の男の声が聞こえた。
声のした方を見ると、そこには、いつだったかお世話になった、土方さんが居た。
彼は、険しい表情を浮かべながら男を睨んでいる。
穏やかではない状況なのは明らかだ。



「血をぉ! 血をよこせえええええ!」



声を荒げながら、あろうことか土方さんに斬りかかる男。
身を乗りだそうとした時、土方さんが自身の鞘から刀を抜いていることに気づいた。

っまさか。

嫌な予感は的中した。
仲間であるはずの男性を、土方さんは容赦なく斬りつけた。
飛び散る血。地面に崩れ落ちる男の体。



「……嘘だろ……」



誰にも聞こえない程度に呟く。

いや、まさか。
理由無しに仲間を斬り殺すわけないって。
相手の男が、言っても聞かない奴で、だから仕方なく、土方さんだって……。

仲間を大事にする真選組を見て来たからなのか、動揺が消えなかった。
同じ”しんせんぐみ”だから、彼等も仲間を大事にするだろうと、勝手に思っていた。
もし本当に、ただの人斬り集団なのだとしたら……、

いや、俺を気遣ってくれた藤堂さんと永倉さんを思い出せ。
ただの、人斬り集団じゃない。

……そうだろ?


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