第三話「室町時代らしい」


眩しい光が消え、目を開ける。目の前には、立派な庭園が広がっている。明らかに、私が先程いた場所と違う。清洲城ではなく、どこかの庭園。隣にいる斉藤タカ丸を見ると、「懐かしいなあ」と呑気に言っている。
……此処どこよ……。
後ろを振り返ってみると、今のご時世では建てられないい長屋のような建物が建っていた。随分と立派な建物だ。ああいう建物に住んでみたい。



――此処は忍術学園。忍者を育成する学校なんだ。
「Oh,really?」
――え? おう? え?



いかん、コイツ室町時代の人だった。英語が通じやしない。つか、忍者を育成する学校って。そんな学校あったんだ、知らなかったわ。……えっ、斉藤タカ丸って歳いくつなの?



「――何者だ、貴様」
「――どうやって此処に入ってきた?」
――潮江文次郎君に立花仙蔵君!



突然、冷たい声が聞こえた。
首には、冷たい何が触れている。此処は室町時代で、戦が頻繁に起きている。ということは、私は何者かによって刃物を添えられているわけだ。武士の場合は刀か槍、忍の場合はクナイや刀や鎖鎌等々。でも、ここは忍者を育成する学校。ということは、相手が忍のほうが納得いく。……つか、この二人斉藤タカ丸の知り合いか。



「おい、答えろ」
「っ……」
――や、やめてよ二人共!



更に刃物を近づけられる。このままじゃ、私の首死ぬ。絶対死ぬ。や、ヤッバイよね、コレ。どうすれば良いんだろう。



「何者、といわれましても、一般人としか言いようがありません」



頑張れ、私! ファイトだ、私! 此処で死んだら元の時代に帰ることが出来なくなるぞ! それに、斉藤タカ丸も成仏できないし! なんとかして生き延びるんだ!



「一般人? 、の割には、どうも面妖な着物を着ているな」



あ、ヤバい、墓穴掘ったかもしんない。そうじゃん、この時代に洋服って通用しねえじゃん。



「とりあえず、貴様には学園長先生の元へ行ってもらおうか」
「学園長先生?」
「……、知らんのか?」
「え、有名な方なんです?」
「…………」



えっ。嘘、なんで黙っちゃうの。



「……埒が明かんな。やはり連れて行こう」
「ああ、そうだな」



その会話を聞いた途端、首元に添えられていた武器が離された。そして、グイッ、と腕を掴まれた。急展開に驚き、私の腕を掴んだ相手を見る。



「来い」



女かと思うほど白い肌に綺麗な顔立ち。そして深緑色の忍装束を着ている。片方は目の下の隈が酷く、老け顔。此方も深緑色の忍装束を着ている。二人とも忍なわけか。私の予想は、やっぱり当たっていた。




 ***




「――…で、その女子が侵入者か」
「はい、学園長先生」



え、侵入者って私のこと? 私いつの間に侵入者になってたの? え?



「お嬢さん、名前を伺ってもよろしいかな?」
「え、あ、はい。鈴村花南と申します」
「……ふむ、良い名じゃ」



私がすんなり名前を言うと思っていなかったのか、目の前に居るお爺さんの言葉は少し間があった。隣にいる斉藤タカ丸は、なんだかそわそわしている。どうしたんだろう。早く仲間のところに行きたいのかな。



「わしは大川平次渦正。この学校の学園長をしておる。……して、鈴村殿は何故この学校におったのかな?」



えーっと……、なんて答えれば良いかな……。



――花南ちゃん、僕のこと喋って良いよ。此処の人達は優しいから。



そうは言われてもね、今だってピリピリした雰囲気じゃん。私こういう雰囲気苦手なわけで、殺されたくないわけで。つか、何さりげなく名前で呼んでるの。……まあ、良いか。



「私は、斉藤タカ丸を成仏させる為に500年程後の未来からやってまいりました」



意を決して言った。言ってやった。しかし、私が頑張って言った言葉に、大川さんも、先程の深緑色の忍装束を着た二人の男も、目線が鋭くなった。そのことに、私はビクビクしてしまう。この肌がピリピリする感じ、きっと殺気が向けられている。



「……ふむ、どこから情報を仕入れた?」
「え……?」



やだ、何コレ……。この人、凄く怖い……。
ピリピリと肌に伝わる嫌な空気に、背筋が凍るのを感じた。何か言わなきゃ、何か……。ちゃんと説明しないと、殺されちゃう……。



「私、は、斉藤タカ丸に、頼まれて……」
「あやつは死んだ」
「幽霊で、今だって私の隣にっ……!」



私の言葉に、大川さんは私の左右隣を見る。しかし、大川さんには見えていないのだ。幽霊になった斉藤タカ丸は、私にしか見えない。こんなんじゃ、信用なんて得られるはずがない……。



「鈴村殿、嘘はいかん」
――学園長先生、本当なんです!



無駄だよ、斉藤タカ丸。アンタの姿は私にしか見えていないし、声も私にしか聞こえない。



「……用が済めば、私は居なくなります。でも、私が居なかったら、きっと斉藤タカ丸は報われない。どうか、お願いします。監禁や監視されても構いません。信じて下さい……!」



畳に額を擦りつけ、土下座をした。斉藤タカ丸の為じゃない。全部、自分が死ぬのが嫌だからやっていることだ。なんとか信じてもらって、斉藤タカ丸を成仏させて、私は帰らなければならない。こんなところで死ぬなんて、真っ平御免こうむる。



「……鈴村殿、おぬしの目には嘘がない」
「っ!」
「っ学園長先生!? この女を信じるのですか!?」



大川さんの言葉に、私は顔を上げて大川さんを見る。大川さんは私を見て、優しく微笑んでいた。



「わしは、鈴村殿を信じてみたいんじゃ。鈴村殿、タカ丸は今どうしておる?」



大川さんの言葉に、隣に居る斉藤タカ丸を見る。斉藤タカ丸は、「ひっぐ、ううっ…」とポロポロ涙を流しながら泣いていた。



「えっと、泣いています」
「泣いて……?」



私自身、戸惑っている。ずっとニコニコしていた斉藤タカ丸が、突然泣いているのだから。



――花南、ちゃん、殺され、る、ひっぐ、かと……っ……!
「……え、えーっと、どうやら私が殺されるかも、と思ったらしく」
「あー…、すまんの。二人には怖い思いをさせてしまった」
「あ、いえ……」



泣き止む様子のない斉藤タカ丸。本当は泣き止んでほしいのだけれど……。



「しばらくの間は、監視という形になってしまうが……」
「あ、はい」



まあ、最初から監視無しっていうのは普通有り得ないよね。うん、私戦国と幕末専門だから知ってたよ。知ってた、うん。いやぁ、それにしても、拷問じゃなくて良かったわ。拷問されたら絶対死にたくなる。



「文次郎、仙蔵、監視役を頼む」
「「招致しました」」



お、おう……。この人達が監視役なの? 滅茶苦茶怖いイメージしか付いてないんだけど、この二人。私コレ大丈夫なのか……? 今なら”絶望した”って大声で言える。


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