おまけA


死んで、もう既に150年は経った。
家族、友人、知人は既に私同様死んでおり、再会は済んでいる。

――ただ一人の、友人を除いては。

そろそろだろうか、と死んでから100年経ってから、川の近くに腰を下ろした。私が居るこの場所は、いわば死後の世界。私の目の前にある川――三途の川――を、向こうから船で渡ってくる者は、みな死んだ者だ。川を渡ってこちらに来れば、みな、自分が一番好きだった歳の姿に変わる。私も含め、大体は20代の姿になっている。



「遅いなあ……」



もう50年は此処で待っている。
家族や友人達が暇な時には私のもとに来てくれているが、流石に待つのも疲れてきた。もしかして、まだまだ先の時代で生まれたのだろうか、アイツは。いつの時代に生まれたのか知らないから、どちらにしろ、こうやってずっと待っているしかないのだが……。

ムゥ……、と口に空気を入れて頬を膨らませた時、川の向こうから小船が来るのが見えた。乗っているのは、年老いたお婆さん。穏やかで優しそうな表情が印象的だ。



「……来たか」



すっと立ち上がる。しばらくして、陸の手前で船が止まった。ゆっくりとお婆さんが船から陸に降り立つと、姿が変わる。
ずっと待ち続けたその人物は、姿が変わっても私が知っているよりも大人びていた。私と出会った頃より数年後の姿なのだろう。だが、面影は残っていて、彼女だと判断するには確認する必要すらない。



「待ちわびたぞ!」



私の言葉に、彼女は私に視線を向けると、驚きの表情をあらわにした。
短かった黒髪は伸び、薄らと施された化粧は、より一層大人びて見える。彼女の綺麗な目から涙が流れ、次第にその量は増していく。頬と鼻も赤く染まり、耐えきれなくなったのか、両手で顔を隠した。

ああ、全く。



「泣き虫なのは変わらないな、――鈴奈!」



私の言葉に、彼女――鈴奈は私に勢い良く抱きついた。鈴奈の体を受け止め、ポンポン、と優しく背中を叩く。こんなに細かったか、鈴奈の体は。当時では分からなかった彼女の女らしさに、私は誤魔化すように「なはは! 変わらないなー」と笑う。
鈴奈は私から体を離すと、涙を浮かべたまま、ふにゃりと笑みを浮かべた。



「また会えて嬉しいよ、七松君」



次の瞬間、私達は笑い合っていた。

鈴奈、話したいことがたくさんあるんだ。お前に何があったのかも聞きたい。ああ、そうだ、留三郎や文次郎とも会わせなきゃな。ついでに長次達とも仲良くなってもらいたい。……それから、私の妻となった女にも。アイツは嫉妬するかもしれないが、大丈夫、良い女だから鈴奈と仲良くなれるさ。
‐終‐



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