04


文久4年1月
相変わらず、寒い日が続く。「ひえー、寒い」と言うと、左之さんがニヤニヤしながら「抱きしめてやろうか?」と聞いてくる。私はそれを「隊士達に衆道だと勘違いされたければどうぞ」と軽くあしらう。その瞬間、左之さんは引き攣った笑みで伸ばしていた手を引っ込める。



「あー、腹減ったぁー!! なあ、先に食って良いか?」
「駄目ですね」
「”なんで止めなかったんだ”って平助に責められるの俺達なんだからな」
「んぐぁぁぁあ!!! 食いてぇぇええ!!!」



新八さんの雄叫びを左から右へ受け流しながら、斎藤さん達の帰りを待つ。沖田さんは少女の監視をしている。斎藤さんは少女に朝餉を届けに行き、平助さんはなかなか戻らない斎藤さんの様子を見に行っている。……私もそろそろお腹が空いてきた。



「まだですかねー……」
「なんだなんだ、寧も朝飯を物欲しそうな顔で見てんじゃねぇか」
「寧は少食なのに、すぐに腹が減るからなあ」



左之さんがそう言った瞬間、廊下から複数の足音が聞こえた。その音に左之さんが「やっと来たか」と言う。その瞬間、部屋の障子が開いた。ぞろぞろと部屋に入ってくる沖田さん達に「おめぇら遅ぇんだよ! この俺の腹の高鳴りどうしてくれるんだ?」と文句を言う新八さん。だが、沖田さんの後ろに違和感が。沖田さんの後ろには、一ヶ月程前から新選組に居る少女の姿。ワオ、あの子まで来るとは思わなかった。



「永倉さん、すみません。私のせいで……」
「な、なんでそいつが居るんだ?」
「居ちゃ悪い?」
「いいじゃねぇか。飯はみんなで食ったほうが美味いに決まってるしな。寧も良いだろ?」
「異論はありませんよ。むしろ華があって良いかと」



私の言葉に左之さんが苦笑する。平助さんは「さっすが!!」と笑った。と、その時、空いていた私の隣に、沖田さんが座った。「相変わらず賑やかだよねぇー」と呆れたように言う沖田さんに、「暗いよりかは全然マシじゃないですか」と返答する私。沖田さんは空の盃を手に取り、「僕の小姓が寧ちゃんで良かったよ」と言う。私は「なんですか急に」と少し呆れながら、酒を手に取って沖田さんが持っている盃へと少し注ぐ。



「なんていうんだろう、こう……、温度差が調度良いというかなんというか」
「私は沖田さんの小姓は二度とやりたくありません。疲れます」
「とか言って、いっつも僕に着いてきてくれるじゃない」
「”逃げたら殺す”って脅したの誰でしたっけ」
「んー、誰かなあ?」



わざとらしく首を傾げる沖田さんに少しイラッとする。ふと平助さん達を見れば、既に朝餉に手をかけていた。相変わらず、飯の取り合いをしている。私はそれに呆れつつ、私も朝餉へと手をかける。皆はみすぼらしいと言うけれど、私はこのくらいの量が調度良い。



「ちょっと良いかい?」



この場に居ない筈の源さんの声が聞こえた。声のした方を見ると、縁側から障子に手をかけて深刻な面持ちで立っている源さんが居た。



「大坂にいる土方さんから知らせが届いたんだが…――山南さんが隊務中に深手を負ったらしい」



源さんの言葉に、その場の空気が凍りつく。私達の反応に、源さんは眉を下げながらも「詳しいことは判らないが、斬られたのは左腕とのことだ。命に別状はないらしい」と言葉を続けた。その言葉に、少女が「良かった……」と安堵する。すかさず、平助さんが「良くねぇよ」と否定をした。その言葉に、私も「そうですね」と頷く。



「刀は、片腕で容易に扱えるものではありません」
「最悪、山南さんは二度と真剣を振るえまい」
「あ……」



途切れた会話に、源さんは「それじゃ、私は近藤さんと話があるから……」と言い残し、行ってしまった。源さんが行ってしまった後の空気は、更に重くなる。知らなかったとは言え、不躾な質問をしてしまった少女は特に気まずいだろう。



「山南さんには、”薬”でもなんでも使ってもらうしかないですね」
「おいおい、幹部が”新撰組”入りしてどうすんだよ」
「え?どういう意味ですか?」
「ああ、それは……、”しんせんぐみ”の”せん”の字を手偏にした…――」



あ、ヤバい。



「あああああッ!!! 思い出したぁぁああ!!!!」
「「「「っ!!?」」」」



平助さんの言葉に、左之さんが殴りかかりそうになっていた。私が大声を出して平助さんの言葉を遮っていなければ、きっと左之さんは平助さんの頬を殴っていたことだろう。左之さんに視線を向けると、苦笑しながら「悪ぃな」と謝ってきた。やれやれ、少女の事を思っての行動だけれど、男には容赦ないんだから。



「千鶴ちゃんよぉ、今のが聞かせられるぎりぎりのところだ」
「でも……、」
「”新撰組”っていうのは、可哀想な子達のことだよ」
「え……?」



意味深な沖田さんの表情と言葉に、少女は何も言えずに立ち尽くす。その時、斎藤さんが少女に歩み寄った。



「忘れろ。深く踏み込めば、お前の生き死にも関わりかねん」



斎藤さんの言葉が突き刺さったのか、少女は俯いて下唇を噛み締めた。何も知らない彼女にはキツい言葉だろうが、それほど危ないものでもあるのだ。少女は、綱道さんの娘だから新選組に置いているだけ。だから、少女を巻き込んで死なせるような行為は避けたいのだ。少女は、元々はこの新選組と無関係だったのだから。……それでも、胸が痛むのは気のせいじゃないだろう。



/

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -